堀江でございます。
【模造紙と付箋を用いた、情報共有と立案】
初回自己紹介で書いた通り、私は昨年中小企業大学校にて養成課程を修了しました。様々な実務を学んだなかで、特に印象が強く、その後のビジネススタイルに影響を与えたものが、模造紙と付箋を用いた議論方法です。
ヒアリング仮説立案でも、事実出しでも、SWOT作成でも、真因分析でも、全員が立って、それぞれ付箋とマッキーを握りしめ、意見を文字にし、模造紙に貼って、目で確認しながら議論をすること。議論の途中経過は模造紙に残し、後々戻れるようにしておくこと。模造紙はできるだけ壁に貼って流れを目で確認できるようにすること。一つの実習で、模造紙30枚近く壁に貼ったこともありました。
こんなアナログな方法で、何でこんなに腑に落ちる結論を得られるのだろう。全員が関与し納得して出た結論は、皆が本質を共有しており、すぐに実行策立案に移ることができます。
素晴らしい。検討・立案と、意思共有と、摺り合わせと、モチベーション向上をひとまとめで行うことができる。
【海外との違い】
前職では海外畑にいた期間が長く、多国籍チームの議論においてはブレーンストーミングを多用していました。フリーディスカッションに十分時間を使い、お終いにホワイトボードに一気にまとめを書きあげていくやり方です。モデレーターを務めることも多くあり、議論のリードの仕方にはある程度自信がありましたが、それとはまったく異なる経験でした。
ブレーンストーミング型では、アウト・オブ・ボックス(思いもつかなかったような新アイデア)な議論ができます。でも、実際の実行案作成は誰か一人がリードをとるため、全員が流れを理解している、あるいは内容に納得する事は稀でした。
【論理的説明】
それまでの議論の仕方はなんだったんだろう。付箋=見える化=集約=摺り合わせ型と、ブレーンストーミング型は、何がどうちがったんだろう。
そんな疑問をもって、いろいろな機会に何か論理的に説明できる方法を調べています。で、現時点で「これかな」と思える理論をいくつか説明します。
ひとつは、ノーベル賞経済学者ダニエル・カーネマンが提唱する「2段階モデル」です。昨年の今頃、池田信夫氏を中心に話題となりました。2段階モデルの詳細は原著Thinking Fast and Slowにあります。同書の翻訳が先日やっと刊行され(邦題「ファスト&スロー」)、今本屋で平積みになっていいます。
このモデルは人間の意思決定における脳の役割を説明しています。人間の脳は処理能力が限られている、脳は効率的な判断のため、直感的な処理(システム1)と、推論による処理(システム2)の2段階にわけ組み合わせている、とするものです。システム1は脳への負荷が少ないため、脳はできるだけシステム1で処理しようとします。
例えば、怒った人の写真を見て、瞬時に「この人は怒っている」と認識するのはシステム1による処理、もし「なぜ怒っているのか」推論する場合にはシステム2の処理となります。このモデルに基づく脳の役割は以下の通り。(Thinking Fast and Slow並びに池田信夫blogから、関連部分のみ抽出し一部翻訳・改変)
ここで、池田信夫は、日本人が摺り合わせが得意である、それは日本はすでに共有している情報が多く、このシステム1で直感的に判断できる範囲が広いからではないか、と指摘しています。共有情報が少ないと、アメリカのように、システム2に基づく、普遍的価値を求める議論が必要になる、としています。原則にとらわれない大きな変化を伴う意思決定は、システム2に依存し、そもそもコンセンサス型の処理に向かない、とのことです。
だとすると、付箋を用いたディスカッションはよりシステム1に依存した方法、一般的なブレーンストーミングはシステム2、ということになります。別の表現をすれば、付箋を用いる議論方法は、議論をシステム2の推論を必要とする議論を、直感的かつ自動的に判断できるシステム1化していると考えられます。
もうひとつは、エドワード・ホールが提唱した高コンテキスト文化・低コンテキスト文化です。関連部分は下記の通りです。
(参考:「文化を超えて」エドワード・ホール)
模造紙と付箋を使う議論スタイル、ビジネスの上では本当に気に入っています。自宅でも模造紙と付箋を使い、夏休みの旅行について家族会議を開きましたが、こちらはおおいに不評でしたので、家庭内では使うのをやめました。