こんにちは、塾長の山﨑です
先日、「人を大切にする経営研究会」の企業視察で長野県の伊那食品工業株式会社に行きました。この会社は寒天を作っているメーカーで「かんてんぱぱ」のブランドで寒天を使ったさまざまな商品が売られているので主婦ならご存じの方もおられると思います。カンブリア宮殿でも取り上げられており、人を大切にする経営が注目されてます。ベストセラーになって第8巻まで出版されている「日本でいちばん大切にしたい会社」の第1巻(2008年あさ出版)の2番目に紹介されている会社です。
この会社は、寒天の国内80%、世界でも15%ものシェアをもっている寒天のトップメーカーです。寒天は多くの食品や化粧品、医薬品の原材料や添加物としてさまざまな製品に使われていますが、全体的には斜陽産業です。この会社の凄いのは1958年の会社設立以来その斜陽産業で48年間増収増益を続けたところです。自己資本比率は実に80%を超えています。今年12月決算も過去最高が見込まれています。
この会社の前身はかつて地元の製材会社の赤字子会社だったのですが、現在名誉顧問の塚越寛氏が若干21歳にしてこの赤字会社の立て直しを任されたのが実質創業となっています。塚越氏は中学を出てから3年間結核を患い、退院後行くところが無く、その製材会社だけが拾ってくれたということです。
有名な早朝の掃除から見学するため前泊で行きました。伊那食品工業は長野県伊那市西春近の丘陵地帯にあって3万坪の広大な敷地を自然の地形を生かしたままの傾斜に何棟もの施設が建っています。掃除はこの広大な敷地で毎朝途切れることなく続けられていますが、会社の強制でも規則でもなく、社員が自主的に生き生きと行っています。清掃車や芝刈り機をはじめ、各自が必要な道具を格納庫から出して清掃しますが、それらの道具は社員が自宅の清掃でも持ち出し可能とのことです。貸し出し管理もしていませんが、使用後は元にもどして整然と並べられています。会社と社員の信頼関係の強さを物語っています。この信頼関係は会社の「社是」が根本にあります。
社是は、「いい会社を作りましょう」~たくましく そして やさしく~ というものです。この「いい会社」というのが大切で、「良い会社」はB/S・P/Lなどの数字が良い会社ということですが、当社のホームページには以下のように書かれています。
『単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社を取り巻くすべての人々が、日常会話の中で「いい会社だね」と言ってくださるような会社のことです。
「いい会社」は自分たちを含め、すべての人々をハッピーにします。ハピネスこそ人間社会すべての究極の目的だと思います。
「たくましく」とは、手を抜かず、仕事に一生懸命取り組むこと。また自分を律し、その厳しさに耐えることです。永続していく強い会社という意味も含みます。
「やさしく」とは、他人を思いやることです。
どちらを欠くこともなく、両立させている人たちの集まりが「いい会社」と呼ばれるのだと思います。』
このように、社員自身が会社に所属することの幸せをかみしめられる会社を作ろうということを社是にしています。こんな理想的な会社があるのです。
会社の敷地内を公道が走り子供たちの通学路にもなっているので、会社が自費で2カ所に立派な横断歩道橋を設置しています。また社員は車通勤がほとんどですが、出社の際社員は右折禁止になっています。右折による後続車の渋滞を避けるため、左折で入るように何百mも遠回りして全員左折で入ります。地域からもとても愛されています。
「いい会社」のためには「いい組織」である必要があります。この会社の目指す「いい組織」は「家族」であるとしています。そして「家族」を目指すのなら、年功序列でいいと考えています。やり方ではなく「どうあるべきか」を考えているのです。
そしてその経営のあり方は「年輪経営」であるとしています。景気に左右されて、好景気の時に無理に拡大すると必ず反動が来て景気後退期に減収となり、リストラに走る。このような大企業の事例は枚挙にいとまがありませんが、この会社は拡大は求めません。毎年少しづつ着実に年輪を刻むように成長していくのです。今回案内いただいた井上会長が昭和54年の入社時は年商16億円社員44人の会社でした。年輪経営の結果、現在は年商200億円、約600人の会社になりました。その間一度もリストラはしないどころか、毎年わずかずつであっても必ず社員の年収を上げています。
経営理念は「企業は社員の幸せを通して社会に貢献すること」
経営方針は以下の3つです。
- 「無理な成長は追わない」=毎年少しずつ着実に成長する「年輪経営」
- 「敵をつくらない」=競争にならない、オンリーワンを目指す
- 「成長の種まきを怠らない」=研究開発に20%の人財を投入している。
この素晴らしい、伊那食品工業のあと、同じく伊那市の菓匠Shimizuを見学しました。カリスマパティシエの店として名高いこの会社も、「日本でいちばん大切にしたい会社」の第4巻のコラムに掲載されており、昨年ガイアの夜明けでも放送されました。ここも素晴らしい店舗で素晴らしい経営をされています。
ヨーロッパで修行して帰国後、父親から店を引き継いだころはカリスマパティシエとして天狗になり。回りの意見に耳を貸さず、社員は疲れ果てていました。そんなとき母方の祖父が「それで毎日楽しいか」と語り掛け、「はたらくとは『傍楽』(周りが楽しむ、楽をする)だ」と諭され、考えが変わったといいます。当時年間900種類もの洋菓子を開発していて、1店舗で年商4億円を売り上げ、社員の過労、過剰在庫、ロス多発、クレーム多発という状態でしたが、経営戦略を減収・増益に切り替えて、現在110種類に絞っています。商品価値を高め単価アップを図り、上得意だけのメニューや製品づくり、イベントを行っています。つまりこの会社も人を大切にする「年輪経営」に切り替えたのです。大切にしていることは「やらないことを決める」ことだといいます。
最後に、話は変わりますが、伊那食品の半月ほど前に京都の老舗研究会で「万松青果」という青果の仲卸の会長の講演を聞く機会がありました。ここもカンブリア宮殿で紹介された会社なのですが、現会長は4代目で100年以上続く老舗です。会長が公言するのは、日本で一番きれいな仲卸だといいます。一般顧客の来る店舗ではないので、一般的に仲卸の店舗は雑然としていますがここは5Sも徹底していて、社員のモチベーションもとても高く、非常に素晴らしい経営をされています。詳しくは別の機会にまた触れたいと思いますが、この会社も、年功序列、家族主義、正社員主義を公言されています。
経営理念は「私たちは、理想を目指し綺麗ごとだけで仕事をします。」と定めており、ここでも大事なことは「やらないこと(やってはいけなこと)」を伝えること」と会長は語っています。経営のキーワードは「変革」「改革」。経営陣は「スタッフの幸せのため」に仕事をし、スタッフは「お客様に喜んでもらうために」仕事をしています。
これらの会社に共通しているのは、社員とその家族を大切にして、無理な拡大を目指さず、社内外の無駄な競争を配して、常に経営革新、技術革新につとめ、オンリーワンを目指していること。やらないことを決めていることなど、経営の「あり方」を重視していることろが共通している点に気づかされました。
ちなみに万松青果は、「人を大切にする経営学会」のことはご存じありませんでしたが、「いい会社」というのは、「いい経営者」が経営の要諦をしっかりつかんでおられるものだと感じ入った次第です。
長文、最後までお読みいただきありがとうございました。