The Complete In A Silent Way Sessions / Miles Davis (2001)
ジャズの歴史の中でもかなり重要な転機と言って間違いない1969年のマイルス(Miles Davis)のアルバム「In A Silent Way」のComplete Sessionsと名付けられたボックス・セット3枚組。このコンプリート・シリーズはいくつも発表されているが、当初からアルバム単位ではない括りを”コンプリート”なんて銘打つものだから「意味不明」だと、特に高名な評論家を含め揶揄されてきた。自分も初めてこのシリーズを購入した時には、その音源の集め方に上手く順応出来ず、水増しというか、逆にオリジナルの凄さを再認識するツールのひとつとしてしか聴けず、それぞれの音を楽しむという所まで到達出来ていなかった。この「The Complete In A Silent Way Sessions」でも過去に発表されていた「Filles De Kilimanjaro」(1968)、「Water Babies」(1976)、「Circle In The Round」(1979)、「Directions」(1981)、といった編集盤に収録されていた楽曲を含み、果たしてこれが「In A Silent Way」のコンプリートと言っていいのかという疑問が常についてまわる。
ではこれが些末な音源かというとさにあらず。当時のマイルスがいわゆる”ジャズ”という括りから逸脱し、ロックやファンクに接近する時代の貴重な標本となっている。正式に発表されなかった、あるいはテオ・マセロ(Teo Macero)によって巧妙に編集された正規テイクのアウトテイクというだけでなく、才能が溢れてあたかもこぼれ出しそうなマイルスと、それに負けじと猛追する、あるいは追い越しそうになっている周囲のミュージシャンの貴重な記録となっている。参加メンバーはデイヴ・ホーランド(Dave Holland, Bass)、トニー・ウイリアムス(Tony Williams, Drums)、ジャック・ディジョネット(Jack DeJohnette, Drums)、ジョー・チェンバース(Joe Chambers, Drums)、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin, Electric Guitar)、チック・コリア(Chick Corea, Electric Piano)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock, Electiric Piano)、ジョー・ザビヌル(Joe Zawinul, Electric Piano, Organ)という、泣く子も黙る布陣。マイルスが呼んだという事実だけでキャリアに箔が付くので、彼らにとっては最高最大のチャンスでもあったはず。
このあたりからマイルスの電気化が決定的となり、のちの”フュージョン”の流れとなっていくのは周知のとおり。結果論だが、この流れは依然としてアナログ至上主義が残っていたジャズ界を変えた。この辺り、ボブ・ディラン(Bob Dylan)がアコースティックを捨て、エレキ・ギターに持ち替えた為にフォーク原理主義者からバッシングに遭った史実と重なる部分がある。自分はもう昔のようにじっくり検証しながら聴くなんていう忍耐力は持ち合わせていないので、ダラダラと流し聴きするだけなのだが、にしてもどの瞬間を切り取ってもカッコイイ。緊張感に溢れている。実際にマイルスがラッパを吹く時間なんていうのはごく僅か。他はきっと目配せしたり、指示したりという、いわゆる総合プロデューサー的な役割なんだろうけれど、その音数の少なさがまたかっこよかったりする。確信犯的。それぞれが持ち味を披露した後に聴き覚えのあるテーマ(あるいはフレーズ)に戻る時のゾクゾクするようなかっこよさといったら。
オークションにて購入(¥2,031)
- CD (2004/5/11)
- Disc : 3
- Format: CD, Box Set
- Label : Sony