それこそ毎日毎日、病理診断報告書を書いているが、”まさしくこれがこの病変の組織像そのものを表現している”というような診断書を書くことはなかなかできない。
診断書の構造は簡単で、診断名とその所見しかないのだけど、そこで病理医は標本から知りうる患者さんに関して考えられるすべてを、臨床医がわかるような普遍的な、少なくとも病理総論用語にのっとった表現で、簡潔に過不足なく書かなくてはいけない。でも、それが難しい。
胃生検とか大腸生検のように頻度の高い臓器の診断だと、ある程度書くことが決まっていて診断文は定型的になっていて、バリエーションはあまりない。癌か癌ではないか、臨床医に対してもそれで十分だ。でも臨床医が胃を内視鏡で診たら癌ではないのだけど、癌を除外するため念のために生検をすることがある。そのような場合、そこに癌があることはあまりない。内視鏡医が知りたいのは癌かそうでないかだから、先生が心配した病変は癌ではありませんでしたよ、とまず伝え、その上でどうしてそんな風に見えたのか背景病変も知らせる必要がある。
病理診断報告書には、例えば胃生検だったら、診断名には細分類までを含めて、胃癌とか胃炎とか書く。所見欄には、生検組織の個数、部位、癌があるかないか、癌があればその癌の所見、癌がなければ内視鏡的に異常のあった病変の生じた背景所見を記載する。以下に例文を挙げる。
胃癌だったら以下のようになる。
(診断名)
Stomch, body, biopsy, 3 fragments:
Well differentiated tubular adenocarcinoma (tub1), Group 5 ①②③
(所見)
検体は内視鏡的に採取された、胃体部からの生検組織3個。①②③いずれの部位にも、大型不整核を有する異型円柱上皮細胞よりなる異型腺管の増殖が認められます。高分化管状腺癌の像です。
また、胃炎だったら、
(診断名)
Stomach, body, biopsy, 3 fragments:
Chronic gastritis with regenerative and metaplastic change, Group 1 ①②
Erosive gastritis, Group 1 ③
No malignancy seen
(所見)
検体は内視鏡的に採取された、胃体部からの生検組織3個。このうち①②では上皮の再生性変化、腸上皮化生がみられます。粘膜固有層内には中等度の慢性炎症性細胞浸潤が認められます。②には粘膜筋板がみられ、胃底腺は萎縮性です。③では浅いびらんが認められ、ここでも腸上皮化生を認めます。いずれの部位にもH. Pyloriと考えられる桿菌が認められます。提出された検体に悪性の所見は認められません。
となる。診断名を臓器名より先に書く病理医もいるので、若干形式は異なるが、内容は同じ。以前は診断名の前に"-"を入れていたのだけど、ある先生に「これって、飾り?」と言われてからは書かないでいる。
組織学的な所見は、もっと上手に書きたいのだけど、どなたかの標本を診ながらではなく、想像で書いているので、なんとなく臨場感がないのだけど、まあこんなものだ。ただ、この数行で病変のすべてを臨床医がわかるように表現しなくてはいけない。改めて読んでみると実に多くのことを詰め込んで書いているものだと思う。
(この項つづく)
道半ば