笛美さんのインタビュー記事です。
転載させていただきます。
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黒川辞任・法案成立見送りにツイッターデモ「発起人」女性が激白「私の行為を引き継いでほしい」
2020年5月22日 (AERA dot.)
一つのハッシュタグが、国を動かすきっかけとなったーー。5月18日、今国会での成立が見送られた検察庁法改正案。大きなきっかけは、Twitter上で「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを含む抗議の声が5百万回以上ツイートされたことだった。著名な芸能人やクリエイターも多数参加して世論の「うねり」を可視化してみせたツイッターデモ。このハッシュタグを発案し、最初のつぶやきを行った30代の女性会社員・笛美さんに話を聞いた。
インタビューを行った21日はちょうど、黒川弘務・東京高検検事長が緊急事態宣言下で「賭け麻雀」を行っていた事実を認め、辞任を表明したタイミングだった。笛美さんはこんな感想を漏らした。
「私が問題視していたのは、あくまで政府が公的な権力を恣意的に濫用することの怖さ。黒川さん1人に責任を押し付けたいわけではなかったんです」
そもそも、今回のTwitterデモを起こしたきっかけは何だったのか。笛美さんは、自身の置かれた境遇から、行動を起こすまでの道のりを語ってくれた。
東京都内在住で、広告制作系の仕事に従事している笛美さん。20代の頃は深夜勤務も当たり前のハードな毎日を送っていた。
「成功願望が強くて、仕事一筋の生活でした。ニュースは全然見ていなかったし、ましてや政治への興味なんてゼロでした」
20代後半に入ると、職場では男性の同僚や先輩が次々と結婚するようになり、焦りを感じるようになったという。
「男性の場合、結婚しても子どもができても、家事は奥さんに任せて、仕事で同じように成果を上げ続けられる。でも女性の場合は、仕事を続けたいなら家庭も両立していかないといけない。プレッシャーに感じてしまって、辛かったですね。職場では、『結婚したらすぐ仕事辞めそうだね』『女を使って仕事をもらってる』などと、冗談交じりに言われることも多かった。社内外の期待に応えたくて『若くて可愛い』女の子の枠に自分を進んで当てはめようとしていたと思います」
転機が訪れたのは数年前。旅行でヨーロッパのとある国を訪れ、フェミニズム(女性解放運動)の考え方に興味を持ったことだった。「女の子」ではなく、一人の人間として尊重してもらえている感覚に日本との違いを強く感じた。帰国後も、フェミニズムへの関心は深まっていった。
「安倍政権では『女性が輝く社会』としきりに言われますよね。仕事だけでなく結婚して子どもも産まないといけない、その人生に乗れなければ終わりだと思っていた。でもそれは、生き方まで押し付ける国の政策の影響もあったと気付いたんです。それ以降は楽になれました」
一方、周囲の友人との会話ではフェミニズムの話題は出しにくかった。
「『フェミニズム』という単語を出すだけで引かれてしまいそうで。何度か話題にしようと試みたのですが、その度ごとに震えてしまって、結局、口に出すことはできなかった」
こうした事情もあって、フェミニズムや政治に関わる情報収集・発信はツイッターの匿名アカウントを通じて行うことが習慣になっていた。
検察庁法改正案の問題に最初に注目したのは1月だった。「せやろがいおじさん」(お笑い芸人・榎森耕助さんが扮するキャラクター)のYouTube動画で、黒川検事長の定年延長決定が題材とされている回を見たことがきっかけだった。
3月には新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、笛美さんも在宅勤務に。空いた時間で国会中継などを見て、政治について気になることを調べるようになっていった。5月7日、国会を見ていたところ、野党不在のまま法案内容が審議され、来週には採決を行うことが言い渡されていた。
「政権にとって都合のいい人物を検察のトップにつけられる後付けの法案が、国民に知らされないまま成立してしまう。このままでは民主主義がヤバい、と直感的に思いました」
いても立ってもいられなくなり、翌8日には「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグと共にこうツイートした。
<右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法案が通ったら『正義は勝つ』なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください>
それまでにもTwitterで「#自粛と補償はセットだろ」などのハッシュタグをつけたオンラインデモに参加した経験があったことから、投稿への心理的ハードルはそれほど高くなかった。工夫したのは、語調の強い言葉は入れないことだったという。
「『安倍はやめろ』といった強い言葉は自分自身言いづらかったし、見ている人たちにも怖い印象を与えてしまう。自分にとって言いやすく、嘘がない言葉を入れるようにしました」
笛美さんが異変に気付いたのは翌9日の夜だった。SNSでつながる知人のほとんどが「#検察庁法改正案に抗議します」を使ってつぶやいていた。
「漫画家の二ノ宮知子さん、作家の角田光代さん、コピーライターの糸井重里さんなど、私が尊敬していたクリエイターの方たちも同じハッシュタグを使ってつぶやいてくれていた。ここまでの反響はまったく予想していなかったので驚きました」
笛美さんが動いたのはSNSの中だけではなかった。法案が見送りとなるまで、並行して地元選出の国会議員事務所やその秘書への電話かけも行った。Twitterも含め、活動は朝と夜と仕事の休憩中だけ。後は在宅勤務を続ける日々を守り抜いた。
笛美さんの起こしたアクションは政府も無視できないほどの大きなうねりとなった。検察OB有志が法案成立に再考をうながす意見書を提出するなどの動きも合わさって、今国会での法案成立見送りという結果につながった。
「ちょっとは安心したけど、油断はできないと思いました。それよりも、知り合いにバレないよう二重生活をずっと送っていたので、その疲れの方が大きくて。『今回のような行動をもう一度起こさないといけないのかな』『もう疲れたよ』というのが正直なところです」
SNS上のムーブメントが国会での法案審議にまで影響するという歴史的な出来事となった今回の一件。自身の中でも新たな発見があったと笛美さんは語る。
「今まで、周囲の人たちは政治にあまり関心がないと思っていました。でも今回、ツイッター越しに同世代の女性たちから『勇気をもらえた』というリプライをたくさんいただけたんです。みんな本当は言いたいことがあって、言えていなかっただけなんだな、ということに気付くことができました。私が今回やったのは、自分が思っていることを素朴に言ったというだけ。声を上げてくださった方一人ひとりが、私の行為を引き継いでくださったら嬉しいです」
(本誌・松岡瑛理)
転載終わります。
笛美さんはツイッター以外にも地元選出の国会議員にも電話していたのですね。つぶやくだけではない実行力です。素晴らしいです。
お読みいただきありがとうございました。