岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

デジタル・リーディングが続く『レ・ミゼラブル』

2013-02-04 19:17:59 | 
『レ・ミゼラブル』は、『あゝ無情』という題名でご存知の方もいらっしゃるのでは。
この題名は、主人公のジャン・バルジャンの過酷な生涯から来ているのだと思われる。

パンひと切れを妹のために盗んだことに始まる彼の人生は確かに「無情」である。
警部に追われる逃亡者の日々はスリルに富み、読んでいてもハラハラする。

しかし、この追跡劇は実は超長編小説の一部でしかない。
では、ユーゴーはこの小説でなにを書きたかったのか。

小説の中で語っている。
「19世紀前半のフランスの精神史」であると。

読んでいて驚くことは、主役ではなく単なる脇役としか思えない人物でも、徹底的に人物像を書いていく。
ジャン・バルジャンは司教から銀の燭台を盗むのだが、その司教の生涯を微に入り細いに入り書いていく。
あまりに長いので、主人公がだれなのか混乱してしまうほどだ。

同様に、時の王についても事細かに書いていく。
果ては、ジャン・バルジャンが逃げ込んだ修道院の古代から中世、現代(19世紀のこと)までの複雑な歴史を教えてくれる。
かつて、全体小説を志している作家たちが戦後日本にもいた。
が、『レ・ミゼラブル』こそ、その名(全体小説)にふさわしいようにも思える。

第4部を読み進めているのだが、ここでも難解な19世紀前半のフランス政治史を説いている。
今で言う社会福祉についても語られる。

18世紀から19世紀のフランスの政治思想や社会思想は、19世紀後半の日本(明治期)にすばやく伝わってる。
当時の社会慈善家の多くはルソーから影響を受けている。
少し遅れてではあるが、この小説も日本に入っている。

イギリスからの影響も大きいがフランスの影響も決して小さくない。
実は、この19世紀前半の英仏の社会福祉の流れを知ることがとても大事なのだが、恥ずかしながら、『レ・ミゼラブル』を読みながらでもなかなかしっくりと理解できない。

私の非力ではあるが、根はもっと深いようにも思う。
歴史的な研究が欠落しているのではないだろうか。


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