北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

インフルエンザと漢方

2009-10-13 23:57:49 | Weblog
 最近は当たり前になりすぎて死者が出たときくらいしかニュースにならなくなった新型インフルエンザですが、世間ではどのような状態になっているのでしょうか。

 インフルエンザ予防としてワクチンが話題に上りますが、実は漢方も有効なんだそうです。しかし漢方にもいろいろな課題があるというわけで、今日は医療メルマガMRICから、漢方のお医者さんの提言です。

---------- 【ここから引用】 ----------

   ▽ 漢方を活用した日本型医療の創生 ▽

慶應義塾大学医学部漢方医学センター センター長 渡辺賢治

   2009年10月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
            http://medg.jp


●はじめに
 昨今のインフルエンザ騒動を見ていて、漢方を専門とする医師として誠に歯がゆい思いで見ている。大規模臨床研究ではないにしても、麻黄湯(まおうとう)がタミフルと同等の効果という結果が複数出ている。現場でそれを知っている医師は多く、現に各メーカーの在庫が底をつきかけ、生産が間に合わない状況にあると聞く。

 MRIC臨時 vol 271で木村知先生が書かれているように、「インフルバブル」の中で、どうして漢方薬の存在が見えてこないのであろうか。筆者はこうした事態が来ることを想定して、漢方を取り巻く環境のインフラ整備を急ぐことを提言してきたが、残念ながら準備不足の状態で、このような事態を迎えてしまったことを遺憾に思う。

 MRIC臨時 vol 189 「統合医療の確立ならびに推進をうたった民主党マニフェスト」で、民主党のマニフェストに漢方を含む統合医療が盛り込まれていることについて述べさせていただいた。いよいよ民主党政権が発足し、具体的にどのような政策が取られるのか期待されるが、こうしたインフルエンザ騒動を見ていると、早急に漢方の基盤整備をして、日本型医療の創生を急ぐ必要があると考え、本稿を記す。


●漢方の抱えるジレンマ 原材料(生薬)の供給

 麻黄湯がインフルエンザ治療として、何故表に出てこないのであろうか。一番の理由は原材料の供給である。麻黄湯の構成生薬は麻黄(まおう)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)、桂枝(けいし)である。このうち麻黄、甘草は中国の北部の野生品に頼っており、収穫量に限度がある。また、現地の人たちは生活のために乱獲するが、計画栽培をしないで掘りっぱなしのため、掘った後が砂漠化し、大きな環境問題となっている。そのため中国政府は、1999年以降麻黄・甘草の輸出を規制している。

 それに加えて中国の経済発展と元高基調は、生薬原料の価格を押し上げている。
 さらに下記に述べるような世界的な伝統医学見直しの時期に来ており、欧米での需要が急速に伸びているために、限られた生薬資源の配分バランスが崩れつつある。

 このような生薬の不安定な供給状況で、投機的資本の介入により、価格が高騰する危険性もはらんでいる。

 2002年にSARSが流行した時に、タミフル(シキミ酸)の原材料である八角の価格が10倍に高騰したと聞く。

 もしも新型インフルエンザに漢方薬が良いということになり、原価が高騰したら日本の漢方メーカーは大きな打撃を被ることになる。ただでさえ資源の問題、砂漠化の問題で、中国は甘草、麻黄の輸出を問題視している。甘草は漢方薬の7割に使われている大事な生薬であり、理不尽な価格高騰が起こった場合、わが国の漢方製剤の生産そのものに与える影響は大である。


●漢方の抱えるジレンマ 薬価

 では国内栽培を振興すればいい、ということになるが、その足かせとなっているのが、薬価である。麻黄湯の1日薬価は55円である。木村先生が述べておられる「インフルエンザが疑われても検査で陰性」の患者に仮に3日分処方しても160円である。

 発熱する前に危ないと思った段階で麻黄湯もしくは葛根湯を服薬すると、大抵2,3服で済んでしまう。これには教育も必要であるが、そもそも熱が出て症状が出始めた時がインフルエンザの始まりではない。ウイルスにさらされている機会は発病の何倍もあって、潜伏期間の間、免疫力が優れば発症せず、ウイルスの増殖が優っていれば症状が出るわけである。

 潜伏期間の間にも何らかの体のサインのあることが多く、それを見逃さなければ麻黄湯、葛根湯を数回服用すればそれで済んでしまう。ちなみに葛根湯は1日薬価が73円である。タミフル1日分は618円であり、通常5日分処方される。漢方薬を身近に使用することで、医療費削減は十分可能である。

 さらに漢方の良い点はウイルスそのものをターゲットにしていないので、耐性ウイルスを作ることはない。また、生体防御機構を高めているので、不顕性感染を作ることもない。

 薬価は漢方薬といえども西洋薬と同じルールで改訂されている。西洋の新薬の場合、開発費に罹る費用を計算に入れての初期薬価であり、2年毎の改訂で下がっていくことは理解できる。しかしながら漢方薬の場合、生薬の価格で変動するために、一律に下がる薬価ルールが適用されるはずもない。

 事実中国からの輸入価格は上がっているにも関わらず薬価が下がっている。このため、薬価に見合う生薬しか輸入できず、医療の質そのものが危うくなっている。

 漢方製薬メーカーや生薬メーカーは原価と薬価が逆転するいわゆる「逆ザヤ品」を抱えながら全体で利益が出るように調整している。企業でありながら、売れば売るほど赤字という品を売っているわけである。「では明日から赤字品目は撤退します」、といったら日本の医療が成り立たなくなる。メーカーは日本の医療を守るために、大変な犠牲を払っているのである。


●急ぐべきは漢方の基盤整備
生薬の国内自給率向上

 江戸時代までは生薬の栽培は盛んであったが、近年では農村の労働力の欠如、薬価の低下に伴う生薬価格の下落から栽培農家は激減した。その結果生薬の自給率はどんどん低下し、現在では15%にしか過ぎない。食の自給率よりさらに悪い。

 現在の農業技術を持ってすればわが国で栽培できない生薬はほとんどないと聞く。問題は価格が見合うか、ということになる。価格の問題で、わが国の生薬栽培を海外に移していった経緯は食と同じである。生薬の場合、中国への依存が大きいため、中国の経済発展に伴い、原価は上がる一方である。

 今後わが国の伝統医学である漢方を発展させ、国民の健康に資すためには、生薬の安定確保は必須事項である。さらに、農薬・重金属などの心配のない安全性の高い生薬が求められている。

 この点において、トレーサビリティーの担保されている生薬を生産することで、国内需要をまかなうだけでなく、将来的には信頼される生薬を世界に提供することも可能である。

 国内産業の振興の意味でも食とともに、生薬の自給率を上げるべく対策を立て、雇用促進につなげる。

 そのためにも、生薬の薬価基準のルールを見直し、産業振興に見合う薬価を制定するルール作りが必要である。


●生薬を原材料とした日本発の創薬産業の育成

 そうはいっても生薬資源には限りがある。特にここ20年来の欧米における生薬ブームにより、中国の生薬主要輸出国は日本・韓国から欧米にシフトしつつある。

 世界的生薬需要の高まりは、国内産業をいくら振興しても追い付かない可能性もあり、生薬資源がいずれ希少品となることを想定しておかなくてはならない。その前に価格の高騰があり、いずれにしても良質の生薬の安定確保が困難になる事態も予測される。

 分子標的薬の時代に入ったといえ、現在でも生薬由来の創薬は数多く存在する。
 八角からのタミフル(シキミ酸)の例をまたずとも、イチイの樹皮成分からのタキソール、ニチニチソウからのビンクリスチンなど生薬由来の抗がん剤も沢山ある。このように、生薬をシーズとする創薬は、まだまだ多くの可能性を秘めている。

 こうした生薬由来の創薬は、日本がかつてアジアの中心であり、多くの優れた学生が日本に留学に来ては自国に戻って活躍している。しかし最近では日本の生薬研究が衰退し、アジアの中心は香港、上海に移っている。米国では既に香港と組んだ医薬品開発が始まっている。

 わが国発の生薬からの創薬という産業育成は、付随する経済効果のみならず、限られた生薬資源を守る意味でも重要な意味を持つと考えられる。


●次世代を担う人材育成

 以上にも増して重要なのが、次世代を担う人材育成である。漢方の教育は2001年の医学教育モデルコアカリキュラムに入ったお陰で全国80の医学部・医科大学で行われている。しかしながら、教える側の教員不足であり、次世代を担う人材が十分に育っているとは言えない。

 基本的に漢方は全人的・継続的医療であり、総合医のマインドがなくては務まらない。現状の医師教育の中で、総合医教育が不十分であることもあいまって、漢方医が十分に育っていない。ここで言う「漢方医」というのは単に漢方薬を処方する医師という意味ではなく、漢方の特質を十分に理解した医師、ということ
である。

 全人的・継続的医療であることに加え、漢方のもう一つ重要な特質は「未病を治す」ことである。何か症状があった場合、検査に異常が出なくても、漢方医学的に問題があれば早期に漢方治療の介入が必要になる。こうした漢方の特質を生かすことで、予防医療に重きを置く医療政策への転換を図る。

 人材育成に関しては大学が中心であるが、総合医を育成するためには地域病院、診療所と連携した包括的人材育成のプログラムが必要である。

 こうした基盤整備を早急に行い、漢方医学の次世代を担う人材を養成する。


  (・・・中略・・・)


●さいごに

 最先端医療を身につけたわが国は、米国型医療の恩恵を受けつつ、その後追いをすることなく、わが国独自の医療文化を作るべきである。世界の伝統医学を見渡すと、多くの国では、西洋医学の医師ライセンスと伝統医学の医師ライセンスが異なり、その融合が必ずしもうまく行っていない。

 わが国は一つの医師ライセンスで、最先端医療も伝統医学である漢方も両方できる。本稿では触れないが、さらに言えば鍼灸も行うことができる。日本の鍼灸は他国のものと比しても非常に技術が高い精緻なものであり、世界中からニーズがあるが、これにも日本は答えられていない。

 こうした伝統と最先端を融合させた「日本型医療」を創生し、新たな医療文化を形成する時期に来ているように感じる次第である。

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                MRIC by 医療ガバナンス学会
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---------- 【引用ここまで】 ----------

 インフルエンザ対策にはワクチンばかりしか思いつかなかったのですが、漢方もありですか。もちろん素人の思い込みは危険なのですが、体力でウィルスをやっつけるというのが基本ですからね。

 生薬の原料が足りないんだなんて、国内の農政と医薬行政が連携して遊休農地を使って新しい地域ビジネスにならないものかとも思います。《中国北部の野生品》ならば北海道あたりは気候的にもちょうど同じくらいなような気がしますしね。


 さて、ワクチンは有効なのですがこちらにも問題があります。

 安全性が確認される国内供給は2700万人分しか確保できないため、足りない分を海外からの輸入に踏み切らざるを得ません。しかし安全性やワクチンで逆に被害が出たときの訴訟対策や補償などをどうするか、ということが課題なのです。

 そうしたことのためにアメリカやフランスなどではワクチンに関する免責(国が訴訟をうけないとする)制度を敷いている。同時に、不幸にして副反応に巻き込まれた個人のための保険(無過失保障制度)も用意しているそうです。

 なぜこのような制度が必要かと言えば、国も国民も両方を守るためなわけですが、そうした法制度インフラが日本ではまだまだ弱いようです。

 新政権の腕の見せ所ですが、まだそれどころではないのでしょうか。
コメント
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