尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

庭園美術館で「キスリング展」を見る

2019年07月01日 23時03分19秒 | アート
 港区立郷土歴史館を見たあと、白金から目黒に下る道を10分程度、自然教育園庭園美術館が近い。自然教育園は山手線内には珍しい昔の自然を残す場所だ。その一角に旧朝香宮邸、今の東京都立庭園美術館がある。アールデコ様式の華麗な建物は、前に多くの写真で紹介した。そこで「キスリング展」(7月7日まで)が開かれている。僕はすごく好きな画家なんだけど、あまりよく知らない。いろんな美術館で、あの絵いいなと思うとキスリングだった。だから気になるんだけど、まとまったキスリング展は一度も行ったことがない。この機会に是非見てみたいと思ってたら、もう会期末が近いじゃないか。
 
 今回一番驚いたのは、チラシにも使われている絵だ。題名は『ベル=ガズー(コレット・ド・ジュヴネル)』。それだけじゃ判らないけど、解説を読んだらこの絵のモデルはコレットの娘だった。この間読んで記事を書いたフランスの女性作家コレットである。その一人娘は映画などに関わっていたとある。この絵を見て、妻は伊勢丹の袋だと言った。今調べると、現在は変わっている。紙袋の旧デザインを探してみると、2枚目の写真。うーん、確かに似ている!

 モイズ・キスリング(1891~1953)はポーランドのクラクフで生まれたユダヤ人である。フランスで活躍した「エコール・ド・パリ」派の画家だし、名前だけだと日本人には判りにくい。今まで知らなかったけど、ポーランド生まれだったのか。だからこそ、色彩にあふれた音楽のような美しい絵を書き続けたのか。画題は花や果物が多い。裸婦や肖像画、風景画ももちろん多いが、印象に残るのは様々な色だ。
『サン=トロペでの昼寝(キスリングとルネ)』
 『サン・トロペでの昼寝』と題される絵はその代表。コートダジュールの幸福と倦怠感が画面いっぱいから伝わってくる。花の絵も色彩にあふれていて、見ていて楽しい。エコール・ド・パリはモディリアーニユトリロなど破滅的、悲劇的なイメージがあるが、キスリングはちょっと違う。パリへ来て、キュビスムやフォーヴィズムに触れいろいろな影響を受けたが、次第に描き方は古典に回帰していったという。だけど、ポーランドのユダヤ人出身ということで、第二次大戦中はアメリカに亡命している。画面上はあまりそういう不安を感じさせないけど、やはり20世紀の悲劇を背負っている。

 上の絵は『モンパルナスのキキ』。このモデル女性はパリの最底辺を生きて、10代でカフェの歌手、モデルとなった女性である。モディリアーニ、ユトリロ、藤田のモデルとしても有名で、写真家・映画作家のマン・レイの愛人でもあった。本名はアリス・プラン。この絵でも赤と青の色彩が心に残る。

 庭園美術館は庭も素晴らしいが、洋風庭園の奥に日本庭園茶室がある。今まで未公開だったように思うんだけど、今日歩いていたら開いていた。この茶室も重要文化財。
   
 4枚目の写真、庭の池には緋鯉がいっぱい。木陰の中に赤がくっきり。最近はまさに梅雨という感じの天気が続き、庭園美術館もなんかどんよりしていた。それはそれで趣もある。
 
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港区立郷土歴史館ー壮麗な「内田ゴシック」

2019年07月01日 21時17分41秒 | 東京関東散歩
 東京メトロ南北線白金台駅からすぐの「港区立郷土歴史館」に行った。大阪では「東京は特別区だから二重行政にならない」とか思ってるようだが、実際には各区ごとに歴史館のような施設がある。区が基礎自治体だから、学校教育、社会教育に使える郷土意識向上施設がいるわけである。特に港区に関心があったわけじゃなく、元々の建物が見たいのである。元は「公衆衛生院」という施設で、2002年に国立保健医療科学院として埼玉県和光市に移転した。その建物を港区が取得してリニューアル、2018年秋から「郷土歴史館」の他「がん緩和ケアセンター」や「子育てひろば」も入った「ゆかしの杜」として再生された。カフェもある。建物見学だけなら無料。一度は見る価値がある。
   
 とにかく壮麗な外観で、入ったところのホールも圧倒される。これは「内田ゴシック」なのである。内田ゴシックというのは、東大総長を務めた建築家、内田祥三(うちだ・よしかず)の設計した建物のことで、一番有名なのは東大安田講堂。東大に今も残る格調高い校舎は内田ゴシックである。東京を中心にかなり残されているが、ここほど建物を自由に見られるところはないだろう。特に面白いのは4階の旧講堂。残念ながら座ったりできないんだけど、昔の映画に出てきそうなムードがある。
   
 3階には旧院長室旧次長室がある。また旧書庫は今も図書館として利用されている。そういう部屋もいいけど、廊下や階段なんかも面白い。戦前の映画かなんかに紛れ込んだ気分になる。この前見た「明治生命館」もいいけど、ここは医学の研究機関で雰囲気が違う。公衆衛生院は公衆衛生に関する調査研究機関で、関東大震災後にロックフェラー財団の援助で建設された。1940年建築
   
 郷土歴史館は3階、4階の北部分を利用している。小部屋ごとに原始から近代まで展示されているが、港区というだけあって海との関わりが深く、貝塚や漁業などの展示が印象的。また大名屋敷も多くて、幕末の英国領事館焼き討ちも薩摩藩邸焼き討ちも、そう言えば今の港区だ。薩摩藩に飼われていたという犬や猫の墓が興味深かった。でも歴史ファン以外は建物だけでもいいかもしれない。

 設計者の内田は麻布笄(こうがい)町の自邸に住んでいて、この建物が見えたという。気に入っていたらしい。隣にある東京大学医科学研究所も内田の設計。内田ゴシックはウェブ上で調べられるが、主に東京に集中している。できれば他のものも見てみたいと思う。そこから自然教育園庭園美術館も近い。今日はその後庭園美術館に行ったが、それは別記事で。
コメント (1)
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