尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

組織票の当落を点検するー2019参院選③

2019年07月24日 22時58分38秒 |  〃  (選挙)
 比例票を見たので、団体の組織票の状況も見ておききたいと思った。長くなって一度に書けなかったので、もう一回使って書いておきたい。関心が無いという人が多いかと思うけど、一体どういう団体が組織票を持っているのか、他の人も知っていていいんじゃないか。特に今回は民主党(民進党)が分裂して、支持団体の連合加盟の労働組合も対応が二分された。国民民主党から立候補した労組推薦候補には落選した人もいる。この問題は他の人も一応チェックしておいた方がいい政治情報だろう。

 比例代表の「非拘束名簿式」のやり方は数回前の記事に書いておいた。「特定枠」の候補がいれば優先して当選し、続いて「個人名得票」の多い順に当選になるわけである。さて最大政党・自民党の個人得票第1位は誰だろうか。それは「柘植芳文」である。そもそも読めない人もいるだろう。「つげ・よしふみ」である。顔が思い浮かぶ人は少ないだろう。柘植氏は6年前もトップ当選だった。支持する組織は「全国郵便局長会」である。かつての「全国特定郵便局長会」(全特)だ。
(自民トップの柘植氏)
 あれ、いつから全特は自民支持に戻ったの? と思う人もいるだろうか。小泉内閣の「郵政民営化」に反発して、自民党を離党した「国民新党」の支持に回った。国民新党は民主党政権にも参加したが、改正郵政民営化法成立(2012年4月)により、「全特」(今は特定郵便局はなくなったが、団体の略称は継続しているという)は自民党支持に戻った。国民新党は2013年に解党し、全特は以後の参院選では自民党から組織内候補を擁立してトップ当選を続けている。今回も60万票を獲得した。

 自民党2位の山田太郎は、「みんなの党」盛衰の記事で触れておいたが、前回は「新党改革」で落選した。今回は自民党だから悠々当選。5位の佐藤信秋は元国交次官で建設関係。7位の山田俊男全国農政連(農協出身)だが、過去2回は自民党で個人名2位だったことを思えば、農政票に自民離れがあるのかも。9位の宮本周司全国商工会連合会。10位の石田昌宏日本看護連盟。看護師の代表は今まで女性議員が多かったが、初めての男性看護師議員である。12位の本田顕子薬剤師連盟。14位の羽生田俊日本医師連盟。15位の宮崎雅夫土地改良連盟

 一方、自民党で次点で落選したのは比嘉奈津美だった。沖縄の歯科医師で、2012年に玉城デニー(現知事)を破って衆院議員に当選した。2017年に落選して、今回「日本歯科医師連盟」を支持母体にして出馬した。日歯連は日本歯科医師会の政治団体だが、何回か事件を起こしてきた。6年前は石井みどりを当選させたが、迂回献金事件で日歯連幹部が有罪となった。石井みどりは今回勇退し、後継者選びは混迷し最後に比嘉を立てたが落選した。個人票20位の田中昌史は初の理学療法士連盟からの出馬だったが落選した。以上が個人票で10万票以上を獲得した組織内候補である。

 自民党が長くなったが、本来は労働組合の状況を書きたかった。立憲民主党の個人票上位は軒並み労組出身者である。トップは岸真紀子で、自治労出身。全体で15万7千票ほどで、そのうち3万5千票が北海道なので調べてみたら元岩見沢市職員だった。2位の水岡俊一日教組。3位の小沢雅仁JP労組(旧全逓)。4位の吉川沙織情報労連(NTT出身)。5位の森屋隆私鉄総連。以上が連合推薦候補で全員当選した。6位以下に川田龍平、石川大我、須藤元気。ここまで当選で次点が市井紗耶香だった。自民党議員もそうだけど、組織内議員はほとんど名前を知らない。立憲民主も上位5人は知らなくて、6位から知ってる。10万票を超えるのも5人で、やはり組合員数の多い順に票が出ている。
(立憲民主党トップの岸真紀子)
 一方、大変だったのが国民民主党。こちらは10万票を超えた候補が5人いたが、20万票を取った3人しか当選出来なかった。トップは田村麻美で、連合で最多のUAゼンセン。正式名称は「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」で、繊維産業労組のゼンセンが、21世紀になって食品・流通サービス労組と合同した。イオンやイトーヨーカドー、ビックカメラやヤマダ電機、マツモトキヨシやロイヤルホスト…みんな労組があってUAゼンセンである。組合員170万超の日本最大の労組。

 国民民主党2位の礒崎哲史自動車総連。3位の浜野喜史電力総連。ここまで当選したが、4位の石上俊雄電機連合。5位の田中久弥JAM。ここは金属産業の中小企業の組合である。電機連合やJAMは組織人員だけなら電力総連より多い。電力は危機感を持って相当頑張って集票したのだろう。電機連合やJAMは日教組やJP労組より組合員が多く、実際個人名の得票は立憲民主党候補の誰よりも多かった。どちらも立憲民主党から出ていたら1位で当選していたのである。これは党勢低迷を受けて、国民民主内の順位争いに力を入れたということだ。今後敗北した労組の対応が注目される。

 連合(日本労働組合総連合会)はかつての社会党支持の総評(日本労働組合総評議会)と民社党支持の同盟(全日本労働総同盟)に加えて、中間派の中立労連、新産別が複雑な経過をたどって1989年に合同した。それに対して共産党系が「排除」され、共産党系の組合は全労連(全国労働組合総連合)を結成した。今回、立憲民主党から出た労組は旧総評系国民民主党から出た労組は旧同盟系と先祖返りした感じ。労働戦線の長い対立関係があって、連合は野党統一候補が共産党系になったところで推薦を出さなかった。

 今後も立憲民主党が優勢なら次は立憲民主から候補を出す労組も出てくるかもしれない。一方、原発ゼロに反発する電力総連は立憲民主に行けない可能性が高い。むしろ自民党支持になってしまうかもしれない。共産党との共闘関係の評価とも絡み、連合内の労組の動向は注目される。今どき労働組合は弱体化して役立たないと思うかもしれないが、このように野党の比例票を見れば集票力がそれなりに残っていることが判る。これは無視できないことだろう。
コメント (1)
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