ロシアではプーチン大統領が戦況に関する報道を国内で大幅に規制する改正刑法案に署名した。ロシア軍に関する「フェイクニュース」や「信用失墜を狙った情報」を広める行為を禁止する内容で、違反者は最大で禁錮15年や罰金150万ルーブル(約140万円)を科される。これは外国報道機関にも適用されるとされ、欧米報道機関には撤退したところも出始めている。今後個人のSNS発信も規制されるかもしれない。「特別軍事行動」と述べているプーチン大統領は引っ掛からないのだろうか。
(報道規制法に署名)
今回はウクライナ戦争と核兵器に関して考えたい。ソ連崩壊時にソ連の核兵器はロシア以外に、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに配備されていた。各国内に配備された核兵器は、もちろん各共和国が管理していたのではなく、「ソ連軍」が管理していたわけである。しかし、突然のソ連崩壊により、それぞれの国に取り残されてしまった。その核兵器はどうなったかというと、結果的にはロシアに引き渡されることになった。1994年のブダペスト覚書によって、先の3国が核不拡散条約(NPT)に加盟し、核兵器を保有する署名国(米英ロ、後に個別に仏中も)が3国の安全を保証することで、3国は核兵器をロシアに引き渡すとされた。
僕も今回の事態になるまで、そのことを忘れていたのだが、ロシアだけでなく米英なども全くの覚書違反ではないか。ロシアは何と言ってるかというと、ウィキペディアを見ると、2014年の政変でウクライナには革命が起こり新国家となり、その新国家の政権とは覚書は未確認だと言っているという。そんなバカなという詭弁である。もっともこのブダペスト覚書は政治的に署名されただけで、各国によって批准された条約と違う。法的な強制力があるかどうかは微妙な問題らしい。
「あの時核兵器を放棄していなければ」と論じる人がいる。今回のロシア侵攻はウクライナに核兵器があれば防げたのだろうか。しかし、考えてみればそんなことはあり得ないと判る。何故ならば、ウクライナには核兵器を管理する能力がなかったからである。米英もNPTに反して新核保有国を認めることは出来なかっただろう。そういう問題をクリアーしたとしても、ウクライナには核兵器をリニューアルしていく技術も資金もない。無理に核兵器を所持しても、それは大昔の核兵器をただ持っているだけのことである。どんなに頑張っても、ウクライナがロシアより大量の核兵器を持つことなど不可能である。
ウクライナが無理に核保有に固執しても、当時の国際環境からデメリットしかないんだから、ブダペスト覚書に署名したのは合理的な行動だった。実際仮にウクライナに核兵器があったとして、どのように利用できると言うのだろう。核兵器を用いれば侵攻するロシア軍を撃退できるというのは、意味がない議論だ。確かにロシア軍は壊滅できるが、代わりに自国の大地が放射線廃棄物によって恐るべき汚染に見舞われる。だから核兵器は基本的に相手国領土でしか使用できない。
ではウクライナ周辺に集中していたロシア軍には使えるか。もちろん、そんなことは不可能だ。ウクライナ側から戦端を開いて大量破壊兵器を使用すれば、世界の同情は一挙に失われる。開戦責任をすべてウクライナが負うことになる。そして、ロシアは6375発の核兵器を持つとされるから、ウクライナ主要都市は直ちにロシアによる核攻撃を受けることになる。つまり、ロシアを上回る核兵器を所有し、ロシア核基地をすべて特定して、そこに正確に核爆弾を投下して一気に無力化する能力がない限り、ウクライナに数百発の核兵器があったとしても使うことは出来ないのである。
今の核兵器数はストックホルム国際平和研究所の年鑑に掲載された数で、提携する広島県のサイトに出ている。(「世界の核兵器保有数」参照。2021年1月時点のもので、アメリカ5800、中国320、フランス290、イギリス215で、200を越えているのはこの5ヶ国だけ。要するに核兵器は事実上米ロの独占に近く、5大国以外でNPT体制を無視して核兵器を保有する国はあるけれど、全世界的にはあまり意味がないのである。(全世界的に意味がなくても、インド、パキスタンはお互いを牽制する目的だけで保有している。イスラエルも核を持たないアラブ諸国に優位に立つために保有している。)
日本では安倍晋三元首相が「核兵器の共有(シェア)を議論すべき」と述べた。この共有というのは、NATOで導入されているものだが、「アメリカの核兵器を日本国内に配備して共同で運用する」という方式である。もちろん「非核三原則」(持たず、作らず、持ち込ませず)に反する議論だが、現実性の全くない愚論というしかない。NPT体制発足時にアメリカの核兵器はすでに西欧諸国に配備されていた。それを限定的に条約後も継続する条項で、ある時期までは秘密にされていたという。「共有」というが、アメリカ軍が管理して運用するものであって、米国の戦略を無視して配備国が核兵器を使うことは出来ない。
(核共有を主張する安倍元首相)
有効性や戦略的効果、あるいは政治的判断は別にして、日米安保条約があるんだから「核兵器共有」は可能なのだろうか。沖縄返還以前は沖縄に核兵器が配備されていたし、日本国内の基地にも配備されていた可能性がある。しかし、それは大昔の事情であって、「日本は特別」というのなら他の国も「自国も特別」と言うだろう。アメリカに可能ならロシアも可能だとなり、例えばロシアの核兵器をシリアに配備するといった壊滅的悪影響をもたらすに決まっている。(そうなったらイスラエルはシリア基地を核攻撃する可能性が高い。)ロシアがキューバと「共有」しても良いことになる。安倍氏は「日本は特別に認められるべき」と思い込んでいるらしいが、世界を破滅に追い込む政策である。
そもそも安倍元首相はプーチン大統領と世界でもっとも多く会談した首脳の一人である。第一次政権時代を含め、27回も会ったという。山口県に呼んだことも記憶に新しく、「ウラジーミル」などと呼んでいた。その結果、北方領土問題は何の進展もなく、なし崩し的に日本が条件を下げてしまった挙げ句、ロシアは憲法改正で「領土割譲禁止」を決めてしまった。その交渉のことは先に「安倍外交と北方領土ー「大誤算」の内情」(2021.12.20)を書いた。結局安倍氏はプーチンに欺されてコケにされたんだと僕は思っている。安倍氏がまずするべきことは、北方領土交渉をプーチン大統領とどのように交渉すべきだったか、明らかにすることではないか。「私はプーチンにこう欺された」という本を書けば世界的ベストセラーになるだろう。
(報道規制法に署名)
今回はウクライナ戦争と核兵器に関して考えたい。ソ連崩壊時にソ連の核兵器はロシア以外に、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに配備されていた。各国内に配備された核兵器は、もちろん各共和国が管理していたのではなく、「ソ連軍」が管理していたわけである。しかし、突然のソ連崩壊により、それぞれの国に取り残されてしまった。その核兵器はどうなったかというと、結果的にはロシアに引き渡されることになった。1994年のブダペスト覚書によって、先の3国が核不拡散条約(NPT)に加盟し、核兵器を保有する署名国(米英ロ、後に個別に仏中も)が3国の安全を保証することで、3国は核兵器をロシアに引き渡すとされた。
僕も今回の事態になるまで、そのことを忘れていたのだが、ロシアだけでなく米英なども全くの覚書違反ではないか。ロシアは何と言ってるかというと、ウィキペディアを見ると、2014年の政変でウクライナには革命が起こり新国家となり、その新国家の政権とは覚書は未確認だと言っているという。そんなバカなという詭弁である。もっともこのブダペスト覚書は政治的に署名されただけで、各国によって批准された条約と違う。法的な強制力があるかどうかは微妙な問題らしい。
「あの時核兵器を放棄していなければ」と論じる人がいる。今回のロシア侵攻はウクライナに核兵器があれば防げたのだろうか。しかし、考えてみればそんなことはあり得ないと判る。何故ならば、ウクライナには核兵器を管理する能力がなかったからである。米英もNPTに反して新核保有国を認めることは出来なかっただろう。そういう問題をクリアーしたとしても、ウクライナには核兵器をリニューアルしていく技術も資金もない。無理に核兵器を所持しても、それは大昔の核兵器をただ持っているだけのことである。どんなに頑張っても、ウクライナがロシアより大量の核兵器を持つことなど不可能である。
ウクライナが無理に核保有に固執しても、当時の国際環境からデメリットしかないんだから、ブダペスト覚書に署名したのは合理的な行動だった。実際仮にウクライナに核兵器があったとして、どのように利用できると言うのだろう。核兵器を用いれば侵攻するロシア軍を撃退できるというのは、意味がない議論だ。確かにロシア軍は壊滅できるが、代わりに自国の大地が放射線廃棄物によって恐るべき汚染に見舞われる。だから核兵器は基本的に相手国領土でしか使用できない。
ではウクライナ周辺に集中していたロシア軍には使えるか。もちろん、そんなことは不可能だ。ウクライナ側から戦端を開いて大量破壊兵器を使用すれば、世界の同情は一挙に失われる。開戦責任をすべてウクライナが負うことになる。そして、ロシアは6375発の核兵器を持つとされるから、ウクライナ主要都市は直ちにロシアによる核攻撃を受けることになる。つまり、ロシアを上回る核兵器を所有し、ロシア核基地をすべて特定して、そこに正確に核爆弾を投下して一気に無力化する能力がない限り、ウクライナに数百発の核兵器があったとしても使うことは出来ないのである。
今の核兵器数はストックホルム国際平和研究所の年鑑に掲載された数で、提携する広島県のサイトに出ている。(「世界の核兵器保有数」参照。2021年1月時点のもので、アメリカ5800、中国320、フランス290、イギリス215で、200を越えているのはこの5ヶ国だけ。要するに核兵器は事実上米ロの独占に近く、5大国以外でNPT体制を無視して核兵器を保有する国はあるけれど、全世界的にはあまり意味がないのである。(全世界的に意味がなくても、インド、パキスタンはお互いを牽制する目的だけで保有している。イスラエルも核を持たないアラブ諸国に優位に立つために保有している。)
日本では安倍晋三元首相が「核兵器の共有(シェア)を議論すべき」と述べた。この共有というのは、NATOで導入されているものだが、「アメリカの核兵器を日本国内に配備して共同で運用する」という方式である。もちろん「非核三原則」(持たず、作らず、持ち込ませず)に反する議論だが、現実性の全くない愚論というしかない。NPT体制発足時にアメリカの核兵器はすでに西欧諸国に配備されていた。それを限定的に条約後も継続する条項で、ある時期までは秘密にされていたという。「共有」というが、アメリカ軍が管理して運用するものであって、米国の戦略を無視して配備国が核兵器を使うことは出来ない。
(核共有を主張する安倍元首相)
有効性や戦略的効果、あるいは政治的判断は別にして、日米安保条約があるんだから「核兵器共有」は可能なのだろうか。沖縄返還以前は沖縄に核兵器が配備されていたし、日本国内の基地にも配備されていた可能性がある。しかし、それは大昔の事情であって、「日本は特別」というのなら他の国も「自国も特別」と言うだろう。アメリカに可能ならロシアも可能だとなり、例えばロシアの核兵器をシリアに配備するといった壊滅的悪影響をもたらすに決まっている。(そうなったらイスラエルはシリア基地を核攻撃する可能性が高い。)ロシアがキューバと「共有」しても良いことになる。安倍氏は「日本は特別に認められるべき」と思い込んでいるらしいが、世界を破滅に追い込む政策である。
そもそも安倍元首相はプーチン大統領と世界でもっとも多く会談した首脳の一人である。第一次政権時代を含め、27回も会ったという。山口県に呼んだことも記憶に新しく、「ウラジーミル」などと呼んでいた。その結果、北方領土問題は何の進展もなく、なし崩し的に日本が条件を下げてしまった挙げ句、ロシアは憲法改正で「領土割譲禁止」を決めてしまった。その交渉のことは先に「安倍外交と北方領土ー「大誤算」の内情」(2021.12.20)を書いた。結局安倍氏はプーチンに欺されてコケにされたんだと僕は思っている。安倍氏がまずするべきことは、北方領土交渉をプーチン大統領とどのように交渉すべきだったか、明らかにすることではないか。「私はプーチンにこう欺された」という本を書けば世界的ベストセラーになるだろう。