映画雑誌「キネマ旬報」の2021年ベストテンの紹介。昔は1月初めに一般ニュースで流れたが、ここ数年発表しなくなった。そこで例年は紹介して寸評していたと思うが、今年はいろいろあって忘れていた。3月11日に日本アカデミー賞の表彰式があって、少しテレビを見ていたら、やはり書いておこうかなと思った。賞には運不運があるし、絶対という基準は存在しない。しかし、優秀主演女優賞が、天海祐希、有村架純、永野芽郁、松岡茉優、吉永小百合なのはどうなのか。
いくら日本アカデミー賞が業界大手のお祭りと言っても、「茜色に焼かれる」の尾野真千子が入ってないのはおかしすぎる。キネマ旬報と毎日映画コンクールの主演女優賞はともに尾野真千子だった。毎日映画コンクールのノミネートは、有村架純(花束みたいな恋をした」)、加賀まりこ(「梅切らぬバカ」)、門脇麦(「あの子は貴族」)、瀧内公美(「由宇子の天秤」)で、有村架純以外は共通していない。作品本位で映画を見れば、2021年の女優賞は尾野真千子で決まりだなと見ればすぐ判る。
キネマ旬報の日本映画ベストテンは以下の通り。今年の10本はすべて紹介した作品だったので、リンクを貼った。別にベストテンに拘っているわけではないが、長年見てているから僕が面白いなと思って紹介した映画は大体上位に来る。
日本映画ベストテン
①ドライブ・マイ・カー(濱口竜介) ②茜色に焼かれる(石井裕也) ③偶然と想像(濱口竜介) ④すばらしき世界(西川美和) ⑤水俣曼荼羅(原一男) ⑥あの子は貴族(岨出由貴子) ⑦空白(吉田恵輔) ⑧由宇子の天秤(春木雄二郎) ⑨いとみち(横浜聡子) ⑩花束みたいな恋をした(土井裕泰)
毎日映コンの作品賞ノミネートは、「茜色に焼かれる」「空白」「すばらしき世界」「ドライブ・マイ・カー」「由宇子の天秤」だった。日本アカデミー賞の優秀作品賞は「キネマの神様」「孤狼の血LEVEL2」「すばらしき世界」「ドライブ・マイ・カー」「護られなかった者たちへ」である。僕は2021年の劇映画ベスト5は毎日映コンの5作品だと思う。「孤狼の血LEVEL2」はまだ理解出来るけど、「キネマの神様」が入って「茜色に焼かれる」や「空白」が落ちているのは作品以外の事情なんだろう。
僕は濱口竜介監督の「偶然と想像」は話が嫌なので選ばない。シャレた設定だとか、語り口がうまいとか言っても、話の内容に共感できないのでは困る。僕は「ドライブ・マイ・カー」以上に、「ハッピーアワー」が濱口監督の最高傑作だと思っている。「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹原作だから良いとか、だからダメという人もいるけど、多分見てないんだろう。稽古シーンは興味深いが、「ワーニャ叔父さん」を上演ということで想定通りのラストになる。僕のベストは「すばらしき世界」で、これは役所広司の演技とテーマ性に共感したのである。技術面(撮影、照明、録音など)に難があるが「由宇子の天秤」にも感心した。
(「ドライブ・マイ・カー」が8冠だった日本アカデミー賞)
次点以下は ⑪BLUE/ブルー(吉田恵輔) ⑫護られなかった者たちへ(瀬々敬久) ⑬孤狼の血LEVEL2(白石和彌) ⑭子供はわかってあげない(沖田修一) ⑮まともじゃないのは君も一緒(前田弘二) ⑯騙し絵の牙(吉田大八) ⑰街の上で(今泉力哉) ⑱愛のまなざしを(万田邦敏) ⑲シン・エヴァンゲリオン劇場版(庵野秀明) ⑳草の響き(斎藤久志)
それ以下の作品を挙げてみると、21位「サマーフィルムにのって」、23位「アジアの天使」、24位「ヤクザと家族」、36位「燃えよ剣」、42位「椿の庭」、49位「キネマの神様」「老後の資金がありません」、72位「いのちの停車場」、95位「竜とそばかすの姫」、106位「そして、バトンは渡された」…といった具合である。
吉田恵輔監督(1975~)は「空白」と「BLUE/ブルー」があって、芸術選奨新人賞を受けた。今までに「純喫茶磯辺」「さんかく」「銀の匙」「ヒメアノール」「愛しのアイリーン」などを作ってきた。長年ボクシングをやってきたということで、「BLUE/ブルー」はボクシング映画である。見るのが遅くなって、ここでは書かなかったが、ボクシング映画は大体面白い。強いけど目をやられた東出昌大と弱いけどボクシングが好きな松山ケンイチ、二人の青春。「子供はわかってあげない」の沖田修一監督(1977~)と並ぶ代表的な中堅監督だが、どちらも今ひとつ作品世界にパンチがなかった。吉田監督の「空白」は今までを打ち破るド迫力の人間ドラマだったが、まだちょっと人間配置が図式的か。今後に注目である。
キネマ旬報では「文化映画」が貴重である。まあ僕は最近は劇映画以外はあまり見なくなってしまったが。今年は文化映画ベストワンの「水俣曼荼羅」が一般のベストテンの5位にも入っている。今までに記憶がないぐらい非常に珍しいことだとと思う。しかし、「ドライブ・マイ・カー」と「水俣曼荼羅」を同じように比較して順位を付ける基準は存在するのだろうか。よく判らないけれど、まあ原一男監督の集大成的な大作であることは間違いない。なお、2020年ベストワンだった大島新監督の新作「香川1区」は、12月24日公開だったから、2022年扱いになる。
文化映画ベストテン
①水俣曼荼羅 ②くじらびと ③いまはむかし~父・ジャワ・幻のフィルム ③陶王子2万年の旅 ⑤サンマデモクラシー ⑥明日をへぐる ⑦東京クルド ⑦東京自転車節 ⑨終わりの見えない闘いー新型コロナウイル感染症と保健所ー ⑩きみが死んだあとで ⑩緑の牢獄
「すばらしき世界」「あの子は貴族」「いとみち」が女性監督による映画だった。ベストテンに3本入るのは、例年より多いと思うが、11位から20位までには一本もない。若手女性監督はかなりいるけれど、商業的に大きな映画はなかなか任されにくい状況があるだろう。どうしても小さな独立プロ作品が多くなる。興行的に難しく、見る機会も少なくなる。しかし、小説や漫画では女性の方が活躍しているぐらいだから、10年後には女性監督が倍増しているだろう。もっとも女性監督だから必ず面白いというわけもなく、結局は作品本位の評価ということになる。
いくら日本アカデミー賞が業界大手のお祭りと言っても、「茜色に焼かれる」の尾野真千子が入ってないのはおかしすぎる。キネマ旬報と毎日映画コンクールの主演女優賞はともに尾野真千子だった。毎日映画コンクールのノミネートは、有村架純(花束みたいな恋をした」)、加賀まりこ(「梅切らぬバカ」)、門脇麦(「あの子は貴族」)、瀧内公美(「由宇子の天秤」)で、有村架純以外は共通していない。作品本位で映画を見れば、2021年の女優賞は尾野真千子で決まりだなと見ればすぐ判る。
キネマ旬報の日本映画ベストテンは以下の通り。今年の10本はすべて紹介した作品だったので、リンクを貼った。別にベストテンに拘っているわけではないが、長年見てているから僕が面白いなと思って紹介した映画は大体上位に来る。
日本映画ベストテン
①ドライブ・マイ・カー(濱口竜介) ②茜色に焼かれる(石井裕也) ③偶然と想像(濱口竜介) ④すばらしき世界(西川美和) ⑤水俣曼荼羅(原一男) ⑥あの子は貴族(岨出由貴子) ⑦空白(吉田恵輔) ⑧由宇子の天秤(春木雄二郎) ⑨いとみち(横浜聡子) ⑩花束みたいな恋をした(土井裕泰)
毎日映コンの作品賞ノミネートは、「茜色に焼かれる」「空白」「すばらしき世界」「ドライブ・マイ・カー」「由宇子の天秤」だった。日本アカデミー賞の優秀作品賞は「キネマの神様」「孤狼の血LEVEL2」「すばらしき世界」「ドライブ・マイ・カー」「護られなかった者たちへ」である。僕は2021年の劇映画ベスト5は毎日映コンの5作品だと思う。「孤狼の血LEVEL2」はまだ理解出来るけど、「キネマの神様」が入って「茜色に焼かれる」や「空白」が落ちているのは作品以外の事情なんだろう。
僕は濱口竜介監督の「偶然と想像」は話が嫌なので選ばない。シャレた設定だとか、語り口がうまいとか言っても、話の内容に共感できないのでは困る。僕は「ドライブ・マイ・カー」以上に、「ハッピーアワー」が濱口監督の最高傑作だと思っている。「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹原作だから良いとか、だからダメという人もいるけど、多分見てないんだろう。稽古シーンは興味深いが、「ワーニャ叔父さん」を上演ということで想定通りのラストになる。僕のベストは「すばらしき世界」で、これは役所広司の演技とテーマ性に共感したのである。技術面(撮影、照明、録音など)に難があるが「由宇子の天秤」にも感心した。
(「ドライブ・マイ・カー」が8冠だった日本アカデミー賞)
次点以下は ⑪BLUE/ブルー(吉田恵輔) ⑫護られなかった者たちへ(瀬々敬久) ⑬孤狼の血LEVEL2(白石和彌) ⑭子供はわかってあげない(沖田修一) ⑮まともじゃないのは君も一緒(前田弘二) ⑯騙し絵の牙(吉田大八) ⑰街の上で(今泉力哉) ⑱愛のまなざしを(万田邦敏) ⑲シン・エヴァンゲリオン劇場版(庵野秀明) ⑳草の響き(斎藤久志)
それ以下の作品を挙げてみると、21位「サマーフィルムにのって」、23位「アジアの天使」、24位「ヤクザと家族」、36位「燃えよ剣」、42位「椿の庭」、49位「キネマの神様」「老後の資金がありません」、72位「いのちの停車場」、95位「竜とそばかすの姫」、106位「そして、バトンは渡された」…といった具合である。
吉田恵輔監督(1975~)は「空白」と「BLUE/ブルー」があって、芸術選奨新人賞を受けた。今までに「純喫茶磯辺」「さんかく」「銀の匙」「ヒメアノール」「愛しのアイリーン」などを作ってきた。長年ボクシングをやってきたということで、「BLUE/ブルー」はボクシング映画である。見るのが遅くなって、ここでは書かなかったが、ボクシング映画は大体面白い。強いけど目をやられた東出昌大と弱いけどボクシングが好きな松山ケンイチ、二人の青春。「子供はわかってあげない」の沖田修一監督(1977~)と並ぶ代表的な中堅監督だが、どちらも今ひとつ作品世界にパンチがなかった。吉田監督の「空白」は今までを打ち破るド迫力の人間ドラマだったが、まだちょっと人間配置が図式的か。今後に注目である。
キネマ旬報では「文化映画」が貴重である。まあ僕は最近は劇映画以外はあまり見なくなってしまったが。今年は文化映画ベストワンの「水俣曼荼羅」が一般のベストテンの5位にも入っている。今までに記憶がないぐらい非常に珍しいことだとと思う。しかし、「ドライブ・マイ・カー」と「水俣曼荼羅」を同じように比較して順位を付ける基準は存在するのだろうか。よく判らないけれど、まあ原一男監督の集大成的な大作であることは間違いない。なお、2020年ベストワンだった大島新監督の新作「香川1区」は、12月24日公開だったから、2022年扱いになる。
文化映画ベストテン
①水俣曼荼羅 ②くじらびと ③いまはむかし~父・ジャワ・幻のフィルム ③陶王子2万年の旅 ⑤サンマデモクラシー ⑥明日をへぐる ⑦東京クルド ⑦東京自転車節 ⑨終わりの見えない闘いー新型コロナウイル感染症と保健所ー ⑩きみが死んだあとで ⑩緑の牢獄
「すばらしき世界」「あの子は貴族」「いとみち」が女性監督による映画だった。ベストテンに3本入るのは、例年より多いと思うが、11位から20位までには一本もない。若手女性監督はかなりいるけれど、商業的に大きな映画はなかなか任されにくい状況があるだろう。どうしても小さな独立プロ作品が多くなる。興行的に難しく、見る機会も少なくなる。しかし、小説や漫画では女性の方が活躍しているぐらいだから、10年後には女性監督が倍増しているだろう。もっとも女性監督だから必ず面白いというわけもなく、結局は作品本位の評価ということになる。