尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

三重県の榊原温泉、「枕草子」に出て来る名泉ー日本の温泉⑮

2022年03月23日 22時48分35秒 |  〃 (日本の山・日本の温泉)
 日本で一番古い温泉はどこだろうか。原始時代に掘削技術はないけれど、列島各地に自然湧出する温泉があるんだから、大昔から人々が利用していたに違いない。だから最古がどこかは判らないけれど、大昔の文献に出て来る温泉は幾つかある。愛媛県の道後温泉聖徳太子が入浴したという伝説がある。その真偽は不明だが、斉明天皇中大兄皇子が百済救援のため九州に赴く途中で来たことはあるらしい。この二人は有馬温泉(兵庫県)や白浜温泉(和歌山県)にも行ったという話が伝わっている。

 また「枕草子」に書かれている温泉もある。第百十七段に「湯は七久里の湯、有馬の湯、玉造の湯」と出ている。「有馬の湯」は有馬温泉で間違いない。「玉造の湯」も島根県の玉造温泉だろう。この名前の由来は、付近で瑪瑙(めのう)が採れたため古来から勾玉(まがたま)作りをしてきたため。三種の神器の一つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)というのがここで作られたと言われるから、古くから朝廷に知られていたのだろう。問題は「七久里の湯」である。読みも不明だが「ななくり」と思われる。

 今全国のどこを調べても、七久里温泉なんて場所はない。「枕草子」には名前しか書いてないから判らないのである。しかし、歴史的に「ななくり」と呼ばれていたらしい温泉がある。それが三重県の榊原(さかきばら)温泉である。いや、長野県の別所温泉だという説もあって、別所に行くとパンフにそう出ている。でも大方は榊原温泉だろうとされているようだ。しかし、そう言われても、それはどこ? 関東ではほとんど知られてないし、行った人も少ないだろう。じゃあ、そこへ行ってみようじゃないか。
(「湯元榊原館」の源泉風呂)
 南紀には何回か行ってるが、熊野古道に行きたいと思って、ある夏にドライブに出掛けた。(結果的には突然台風が襲って来て、古道を歩くどころか熊野川が氾濫して停滞せざるを得なくなった。)一日で奈良の奥の方まで行くのは無理なので、最初の日に榊原温泉に泊まった。どこにあるかもよく判ってなかったが、今は津市、当時はまだ久居(ひさい)市である。南北に長い三重県の中で、東西でも南北でも大体真ん中になる。江戸時代にはお伊勢参りの参拝前に沐浴する湯として賑わったと言われる。
(三重県の温泉地図)
 調べてみると、今では自然湧出する源泉はないという。昔は自然湧出していたらしいから、知られていたのだろう。奈良京都から伊勢へ行く時の途中にあるから、昔の人にもなじみがあったのか。今は5軒の旅館が営業してるようで、調べてみると湯元榊原館というところは、自家源泉100%を掛け流している風呂があると出ている。どうも全体的に湯量が減ってしまい、循環させる旅館が多いようだ。ではそこへ泊まろうと予約した。湯元榊原館はとても大きな旅館で、やはり大きな風呂は循環だったと思う。しかし、源泉と明示した湯船があった。それが一番上の画像だが、多くの人がそこに浸かりきって動かない。
(湯元榊原館)
 それは温度が37度ぐらいでヌルいのである。しかしアルカリ性単純泉の「まろみ源泉」と称していて、夏だからずっと入っていられて、肌はツルツル感がしてきて気持ちが良い。いくらでも入っていられる。だんだん体が温かくなってくる。素晴らしい名湯で、関東からだとちょっと遠いけど、一度は行く価値がある温泉だ。料理や部屋も満足で、大きな旅館は失望することが多いのだが、ここは良かった。「枕草子」の話を知らないと、地元以外の人がなかなか行かないと思うが、ちょっと記憶しておきたいところだ。
(赤目四十八滝)
 観光としては、近くに赤目四十八滝がある。「室生赤目青山国定公園」というのがあって、国立公園ほど有名じゃないけど面白い場所が多い。室生寺は「女人高野」として知られていて、僕も大好きなお寺だけど、赤目四十八滝青山高原となると関東では知名度が低い。僕が一度行ってみたかったのは、もちろん車谷長吉の直木賞受賞作「赤目四十八瀧心中未遂」、そしてその映画化、荒戸源次郎監督作品があったからだ。なんか非常に凄いところのように撮られているけど、案外小さな滝が続く場所だった。どっちかと言えば「ガッカリ名所」かもしれない。オオサンショウウオの生息地で「日本サンショウウオセンター」がある。これは見どころがあった。
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