日比谷のシアター・クリエで大竹しのぶ主演の「ピアフ」を見た。2011年に初演されて大評判になって以来、13、16、18年に続く4度目の再演になる。見たいなあ、見なければと思いつつ、チケットが高いから今まで行かなかった。今回も高いわけだが、お金がないわけじゃない。旅行に行きたいと思って取ってあった一昨年の10万円(給付金)を、しばらく行けそうもないから使ったのである。シアタークリエも初めて。もともとは芸術座があった建物で、そこも森光子主演「放浪記」で一回行っただけ。地下には映画館のみゆき座があって、僕が初めて一人で行った映画館だった。再開発されて、シアタークリエは地下になった。
パム・ジェムス作、栗山民也演出の歌入りのお芝居で、歌が多いという意味ではミュージカル的だが、セリフが全部歌だったりダンスがあるわけではない。どっちかというと、歌手を主人公にした普通のドラマで、その歌手の人生がハンパないのである。エディット・ピアフ(1915~1963)という歌手のことは大昔から知っていた。昔はラジオが主な情報源で、Jポップなんてものはまだなくて洋楽中心に流れていた。70年前後はロック系が多かったが、それ以外にも時々はビリー・ホリデイとかエディット・ピアフなんていう大歌手がいたんだと曲を掛けることがあったのである。僕はすごいなと思って、この二人のLPレコードを買ってしまった。
(エディット・ピアフ)
ビリー・ホリデイ(1915~1959)は昨年「ビリー」という記録映画が公開され、最近も「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」という劇映画が上映されている。二人は生年が同じで、40代で亡くなったことも同じ。どちらも恵まれない環境に生まれ、アルコールや薬物の中毒に悩まされる人生を送った。しかし、今も語り継がれる伝説的なシンガーで、持ち歌は現在も歌われる。もう一つ共通なのは独特な声質で、映画でビリー・ホリデイを演じたアンドラ・デイがゴールデングローブ賞の主演女優賞を受けるほど似せていた。大竹しのぶは日本語歌詞で歌っているわけだが、それでも若い頃、戦時下、薬物中毒など人生の諸時期を見事に歌い分けて、何だかラスト近くでは本人かと思うぐらいだった。
「ピアフが、大竹しのぶに舞い降りた!」とチラシにあるけれど、まさにピアフが憑依したかという感じ。大竹しのぶが朝日新聞に連載しているコラムの中で、「ある日の公演で何だか肩が重いなと思ったら、その日は美輪明宏さんが見に来ていて『ピアフが来てたでしょ』と言われた」とか書いていた。まさか!と思うけど、そう言われても納得してしまいそうな名演である。歌も「愛の讃歌」「ばら色の人生」「水に流して」など見事に聞かせる。ただ、ピアフの生涯には悲惨な出来事が多すぎて、見てるうちに何だか辛くなってくる。決してただ楽しく見られるお芝居ではない。
(公演前の記者会見)
ピアフの人生はおおよそフランス映画「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(2007)で知っている。主演のマリオン・コティヤールも見事な成り切り演技で、何とフランス映画なのにアカデミー賞主演女優賞を取ってしまった。悲惨な生い立ち、街で歌っていて見いだされたが恩人が殺され、ピアフも共犯を疑われる。戦時下はドイツ兵の前で歌いながら、レジスタンスに協力。戦後になってアメリカで人気が出て、米国公演中にミドル級チャンピオンのボクサー、マルセル・セルダンと知り合って大恋愛になる。しかし、セルダンは1949年に飛行機事故で亡くなった。「愛の讃歌」は彼のために(彼の生前に)作られた曲である。激しいショックを受けたピアフをマレーネ・ディートリッヒが支えた。
(映画「エディット・ピアフ」のマリオン・コティヤール)
そこまでが第一部で、第二部はイブ・モンタン、シャルル・アズナヴールなど若い歌手を見い出しては、薬物中毒になっていく。薬物だけでなく、「恋愛中毒」でもある。あれだけ素晴らしい歌を作ったのに(作れる能力を持っていたから?)、依存症から逃れられない。大竹しのぶの「憑依」は素晴らしいわけだが、人生ドラマとしては今ひとつ紋切型という感じもする。ビリー・ホリデイと違って、国家から迫害されたわけでもないし。だけど、それだからこそ「人間の孤独」が心に迫る。
大竹しのぶは僕より2歳下だけど、ほぼ同じ頃に都立高校に通っていたから親近感を持ってきた。若い頃から映画や舞台で何度も見てるけど、浦山桐郎監督の「青春の門」(1975)の織江役から忘れがたい役柄がいっぱいある。年に一度は大竹しのぶをナマで見たいと思いつつ、しばらく見てなかった。まだまだ元気そうだから、何度も見に行けたらいいな。コロナ禍で舞台やコンサートが随分中止になってる中、今度もちゃんと見ることが出来た。関係者の苦労に感謝したい。
パム・ジェムス作、栗山民也演出の歌入りのお芝居で、歌が多いという意味ではミュージカル的だが、セリフが全部歌だったりダンスがあるわけではない。どっちかというと、歌手を主人公にした普通のドラマで、その歌手の人生がハンパないのである。エディット・ピアフ(1915~1963)という歌手のことは大昔から知っていた。昔はラジオが主な情報源で、Jポップなんてものはまだなくて洋楽中心に流れていた。70年前後はロック系が多かったが、それ以外にも時々はビリー・ホリデイとかエディット・ピアフなんていう大歌手がいたんだと曲を掛けることがあったのである。僕はすごいなと思って、この二人のLPレコードを買ってしまった。
(エディット・ピアフ)
ビリー・ホリデイ(1915~1959)は昨年「ビリー」という記録映画が公開され、最近も「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」という劇映画が上映されている。二人は生年が同じで、40代で亡くなったことも同じ。どちらも恵まれない環境に生まれ、アルコールや薬物の中毒に悩まされる人生を送った。しかし、今も語り継がれる伝説的なシンガーで、持ち歌は現在も歌われる。もう一つ共通なのは独特な声質で、映画でビリー・ホリデイを演じたアンドラ・デイがゴールデングローブ賞の主演女優賞を受けるほど似せていた。大竹しのぶは日本語歌詞で歌っているわけだが、それでも若い頃、戦時下、薬物中毒など人生の諸時期を見事に歌い分けて、何だかラスト近くでは本人かと思うぐらいだった。
「ピアフが、大竹しのぶに舞い降りた!」とチラシにあるけれど、まさにピアフが憑依したかという感じ。大竹しのぶが朝日新聞に連載しているコラムの中で、「ある日の公演で何だか肩が重いなと思ったら、その日は美輪明宏さんが見に来ていて『ピアフが来てたでしょ』と言われた」とか書いていた。まさか!と思うけど、そう言われても納得してしまいそうな名演である。歌も「愛の讃歌」「ばら色の人生」「水に流して」など見事に聞かせる。ただ、ピアフの生涯には悲惨な出来事が多すぎて、見てるうちに何だか辛くなってくる。決してただ楽しく見られるお芝居ではない。
(公演前の記者会見)
ピアフの人生はおおよそフランス映画「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(2007)で知っている。主演のマリオン・コティヤールも見事な成り切り演技で、何とフランス映画なのにアカデミー賞主演女優賞を取ってしまった。悲惨な生い立ち、街で歌っていて見いだされたが恩人が殺され、ピアフも共犯を疑われる。戦時下はドイツ兵の前で歌いながら、レジスタンスに協力。戦後になってアメリカで人気が出て、米国公演中にミドル級チャンピオンのボクサー、マルセル・セルダンと知り合って大恋愛になる。しかし、セルダンは1949年に飛行機事故で亡くなった。「愛の讃歌」は彼のために(彼の生前に)作られた曲である。激しいショックを受けたピアフをマレーネ・ディートリッヒが支えた。
(映画「エディット・ピアフ」のマリオン・コティヤール)
そこまでが第一部で、第二部はイブ・モンタン、シャルル・アズナヴールなど若い歌手を見い出しては、薬物中毒になっていく。薬物だけでなく、「恋愛中毒」でもある。あれだけ素晴らしい歌を作ったのに(作れる能力を持っていたから?)、依存症から逃れられない。大竹しのぶの「憑依」は素晴らしいわけだが、人生ドラマとしては今ひとつ紋切型という感じもする。ビリー・ホリデイと違って、国家から迫害されたわけでもないし。だけど、それだからこそ「人間の孤独」が心に迫る。
大竹しのぶは僕より2歳下だけど、ほぼ同じ頃に都立高校に通っていたから親近感を持ってきた。若い頃から映画や舞台で何度も見てるけど、浦山桐郎監督の「青春の門」(1975)の織江役から忘れがたい役柄がいっぱいある。年に一度は大竹しのぶをナマで見たいと思いつつ、しばらく見てなかった。まだまだ元気そうだから、何度も見に行けたらいいな。コロナ禍で舞台やコンサートが随分中止になってる中、今度もちゃんと見ることが出来た。関係者の苦労に感謝したい。