3月4日に、ウクライナ南部にあるヨーロッパ最大級の原子力発電所、ザポリージャ原発をロシア軍が占拠した。出火している映像があるが、原発本体ではなく訓練施設だという。原発本体を攻撃・破壊しようという意図ではないと思うが、攻撃を避けるために原発を運転する職員が避難してしまう可能性はある。電源が失われることもないとは言えない。前にはチェルノブイリ原発をロシア軍が占領したというニュースもあった。とにかく安全が確保されるのかどうか、あり得ない危機が続く。ロシア軍の攻撃は明らかな戦争犯罪であって、ロシア軍の現地司令部は原発攻撃命令は拒否するべきだった。
(攻撃されたザポリージャ原発)
日本では今後ロシアの液化天然ガスが輸入できなくなり、原油価格も上昇が続いているから、「原発を最大限に再稼働せよ」と主張する人がいる。一方で、中国や北朝鮮など「国際法を順守しない国家」が日本を攻撃するかもしれないから、日本も軍備増強を進めよ、「敵基地攻撃能力を持て」という人もいる。おおよそ両者は重なっているのだが、自分で矛盾を感じないのだろうか。日本が戦争の危機にあるのだったら、ウクライナの事態を見れば「原発廃炉」が緊急の課題ではないかと思うが。
今回から数回にわたって、日本国内におけるウクライナ戦争理解の間違いを考えて行きたい。まず「ロシア(プーチン)は何をするか判らない好戦国家である」「だから、いつ日本を攻撃してこないとも限らない」。この「ロシア」というところは「中国」や「北朝鮮」も代入可能で、要するに今こそ「日本の防衛力増強」に努めなければならないと訴える。そのためには「(現行憲法内で)敵基地攻撃能力を可能にする」とか「憲法を改正して国防軍を持つ」とか言い始めるわけである。
このような議論は根本から事態の本質理解を誤っている。日本は「ウクライナ」だと思い込んでいる人が多いが、日本は歴史的には「ロシア」の方だったのである。ロシアはソ連崩壊後に、旧ソ連諸国で何度か武力を行使してきたが、原則的には旧ソ連諸国以外では武力を行使していない。(例外的に中東のシリアを事実上の勢力圏とみなして、軍事的介入を行ってきたが。)中国はウィグル族やチベット族を迫害したり、香港の「一国二制度」を無視して民主化運動を弾圧した。「台湾統一」も目指しているが、香港や台湾を含めて「中国」だという認識は諸外国にも争いはない。つまり、ロシアや中国は「自らの勢力圏」で強硬に出ているのである。武力行使により民間人の犠牲を出すのは論外だが、中ロが闇雲に戦争を仕掛ける好戦国という理解は間違いだ。
ミャンマーではクーデタによって軍事政権が誕生し、民主主義が圧殺されている。それに対して、国際社会は「制裁」を課しているが、ASEANも「内政不干渉」の原則からなかなか解決への見通しが立たない。中国のウィグル問題も「内政不干渉」のもとに、なかなか外部から解決を見通せない。しかし、ロシアの場合はソ連崩壊前後に、15の構成国がすべて「独立」した。(バルト三国は崩壊前に独立を達成。)それは今のロシアからみると、あってはならなかった間違いに見えているかもしれない。しかし「覆水盆に返らず」である。それぞれが国連に個別に加盟したのだから、国連憲章の適用を受ける主権国家になったわけである。
(旧ソ連の構成国)
旧ソ連構成国にもいろいろある。突然の「独立」で国家運営の準備も何もないまま独り立ちさせられ、「失敗国家」になった国が多い。旧共産党幹部がそのまま新国家の首脳に転じて、独裁者になった国も多い。そうじゃない国では、権力を私物化した指導者が追い落とされると、次に登場した指導者も権力を私物化することの繰り返し。そんな国が多かった。ジョージアやウクライナもそのような国だったと言えるだろう。中央アジアのイスラム諸国のように、自国防衛のためにロシアの武力を必要とする国もある。
カザフスタン騒乱の記事で書いたように、CSTO(集団安全保障条約)という仕組みがあって、ロシア、カザフスタン、アルメニア、ベラルーシ、キルギス、タジキスタンの6ヶ国が加盟している。しかし、キリスト教文化圏の中でウクライナ、ジョージア、モルドバは参加していない。(もちろん事情が別のバルト三国は、すでにEUにもNATOにも加盟している。)中央アジアで参加していないのはウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの3国。
これら旧ソ連諸国は、ロシアから見れば自国の「勢力圏」と思っている。ここで勢力圏と言っているのは、昔の「帝国秩序」と言い換えても良いだろう。帝国秩序の崩壊過程で、長い長い騒乱が起きる。南北朝鮮間の問題、台湾をめぐる問題、これらは「大日本帝国の崩壊」によって生じた問題が、75年以上経っても解決していないのである。それどころか、イラクやシリアの戦乱は長い目で見れば100年以上前の「オスマン帝国の崩壊」によって列強が人工的に国境線を引いたことに遠因がある。
1922年に成立したソ連(ソヴィエト社会主義共和国連邦)は、社会主義と称していたが「ロシア帝国」の「帝国秩序」を受け継いで少数民族を抑圧した体制だった。本来高度に発達した資本主義の矛盾から革命に至るはずが、中央アジアなどは資本主義どころか農業社会でもない遊牧民族が突如「社会主義」に巻き込まれた。その「帝国」秩序がソ連末期の混乱の中で、突然何の準備もなく崩れた。今の日本でもアジア周辺諸国を下に見て、支配者然としてかつての過ちを直視出来ない人がいる。ロシアで「旧ソ連圏」は自分の勢力圏であって譲れないと思う政治家がいるのも、日本を思い起こせば想像出来る。
日本はロシアの勢力圏だったことが一度もない。それどころか中国文明に対しても一定の独自性を持ち続けた。逆に近代になってアジアで唯一の「帝国主義国」として中国を侵略したわけである。どこの国の「勢力圏」でもなかった「帝国」が、無謀な対米英戦争を起こして無惨に敗北した。「連合国」のポツダム宣言を受諾したので、日本はアメリカだけでなく、イギリスや中国やソ連など多くの国に敗北したことになる。しかし、日本軍を打ち破った軍事力は圧倒的にアメリカ軍の力だった。それはイギリスやソ連も認めざるを得なかったから、日本の占領はアメリカ軍が中心になった。そして占領終了後も日米安全保障条約を結ぶことで、アメリカ軍が戦後75年を経ても日本に駐留し続けている。
そういう経緯を振り返り、特に沖縄の米軍基地問題を思えば、戦後日本は「アメリカの勢力圏」だと考えられる。ウクライナ問題で判ることは「ロシアが攻めてくる危険性」ではない。アメリカの勢力圏である日本を攻撃すれば、ロシアが負う傷の方が大きい。しかし、日本は主権国家なのだから、日本の防衛政策を自国の有権者が決める権利を持っている。「日米安保条約を廃棄して、中国と同盟を結ぶ」ことも可能なはずである。そのような反米親中政権が選挙によって合法的に成立し、日米安保条約廃棄を通告したものの、アメリカ軍が撤退せず日本政府を武力で打倒しようと東京に向かって進軍中。あえてウクライナ戦争を日本に当てはめれば、以上のような事態のはずである。
もちろん、そんな事態は起こらない。日米安保条約を廃棄するという主張はあっても、その後は「中立」をイメージしているだろう。「勢力圏」を変えるという主張を掲げる政党はないし、あっても政権を取るとは考えられない。ウクライナの人々がロシアに抵抗して「真の独立」を求めている姿を見て思うのは、果たして「日本は真に独立しているのだろうか」ということだ。沖縄県で米軍からコロナ禍が広まった(と思える)のを見ても、日米地位協定の改定程度のことも提起できないのでは、日本は独立しているのかと思う。沖縄の現状に何の思いも寄せずに、中国が攻めてくるなどと言い募るのは、「独立」よりも「従属」を求めることだ。
(攻撃されたザポリージャ原発)
日本では今後ロシアの液化天然ガスが輸入できなくなり、原油価格も上昇が続いているから、「原発を最大限に再稼働せよ」と主張する人がいる。一方で、中国や北朝鮮など「国際法を順守しない国家」が日本を攻撃するかもしれないから、日本も軍備増強を進めよ、「敵基地攻撃能力を持て」という人もいる。おおよそ両者は重なっているのだが、自分で矛盾を感じないのだろうか。日本が戦争の危機にあるのだったら、ウクライナの事態を見れば「原発廃炉」が緊急の課題ではないかと思うが。
今回から数回にわたって、日本国内におけるウクライナ戦争理解の間違いを考えて行きたい。まず「ロシア(プーチン)は何をするか判らない好戦国家である」「だから、いつ日本を攻撃してこないとも限らない」。この「ロシア」というところは「中国」や「北朝鮮」も代入可能で、要するに今こそ「日本の防衛力増強」に努めなければならないと訴える。そのためには「(現行憲法内で)敵基地攻撃能力を可能にする」とか「憲法を改正して国防軍を持つ」とか言い始めるわけである。
このような議論は根本から事態の本質理解を誤っている。日本は「ウクライナ」だと思い込んでいる人が多いが、日本は歴史的には「ロシア」の方だったのである。ロシアはソ連崩壊後に、旧ソ連諸国で何度か武力を行使してきたが、原則的には旧ソ連諸国以外では武力を行使していない。(例外的に中東のシリアを事実上の勢力圏とみなして、軍事的介入を行ってきたが。)中国はウィグル族やチベット族を迫害したり、香港の「一国二制度」を無視して民主化運動を弾圧した。「台湾統一」も目指しているが、香港や台湾を含めて「中国」だという認識は諸外国にも争いはない。つまり、ロシアや中国は「自らの勢力圏」で強硬に出ているのである。武力行使により民間人の犠牲を出すのは論外だが、中ロが闇雲に戦争を仕掛ける好戦国という理解は間違いだ。
ミャンマーではクーデタによって軍事政権が誕生し、民主主義が圧殺されている。それに対して、国際社会は「制裁」を課しているが、ASEANも「内政不干渉」の原則からなかなか解決への見通しが立たない。中国のウィグル問題も「内政不干渉」のもとに、なかなか外部から解決を見通せない。しかし、ロシアの場合はソ連崩壊前後に、15の構成国がすべて「独立」した。(バルト三国は崩壊前に独立を達成。)それは今のロシアからみると、あってはならなかった間違いに見えているかもしれない。しかし「覆水盆に返らず」である。それぞれが国連に個別に加盟したのだから、国連憲章の適用を受ける主権国家になったわけである。
(旧ソ連の構成国)
旧ソ連構成国にもいろいろある。突然の「独立」で国家運営の準備も何もないまま独り立ちさせられ、「失敗国家」になった国が多い。旧共産党幹部がそのまま新国家の首脳に転じて、独裁者になった国も多い。そうじゃない国では、権力を私物化した指導者が追い落とされると、次に登場した指導者も権力を私物化することの繰り返し。そんな国が多かった。ジョージアやウクライナもそのような国だったと言えるだろう。中央アジアのイスラム諸国のように、自国防衛のためにロシアの武力を必要とする国もある。
カザフスタン騒乱の記事で書いたように、CSTO(集団安全保障条約)という仕組みがあって、ロシア、カザフスタン、アルメニア、ベラルーシ、キルギス、タジキスタンの6ヶ国が加盟している。しかし、キリスト教文化圏の中でウクライナ、ジョージア、モルドバは参加していない。(もちろん事情が別のバルト三国は、すでにEUにもNATOにも加盟している。)中央アジアで参加していないのはウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの3国。
これら旧ソ連諸国は、ロシアから見れば自国の「勢力圏」と思っている。ここで勢力圏と言っているのは、昔の「帝国秩序」と言い換えても良いだろう。帝国秩序の崩壊過程で、長い長い騒乱が起きる。南北朝鮮間の問題、台湾をめぐる問題、これらは「大日本帝国の崩壊」によって生じた問題が、75年以上経っても解決していないのである。それどころか、イラクやシリアの戦乱は長い目で見れば100年以上前の「オスマン帝国の崩壊」によって列強が人工的に国境線を引いたことに遠因がある。
1922年に成立したソ連(ソヴィエト社会主義共和国連邦)は、社会主義と称していたが「ロシア帝国」の「帝国秩序」を受け継いで少数民族を抑圧した体制だった。本来高度に発達した資本主義の矛盾から革命に至るはずが、中央アジアなどは資本主義どころか農業社会でもない遊牧民族が突如「社会主義」に巻き込まれた。その「帝国」秩序がソ連末期の混乱の中で、突然何の準備もなく崩れた。今の日本でもアジア周辺諸国を下に見て、支配者然としてかつての過ちを直視出来ない人がいる。ロシアで「旧ソ連圏」は自分の勢力圏であって譲れないと思う政治家がいるのも、日本を思い起こせば想像出来る。
日本はロシアの勢力圏だったことが一度もない。それどころか中国文明に対しても一定の独自性を持ち続けた。逆に近代になってアジアで唯一の「帝国主義国」として中国を侵略したわけである。どこの国の「勢力圏」でもなかった「帝国」が、無謀な対米英戦争を起こして無惨に敗北した。「連合国」のポツダム宣言を受諾したので、日本はアメリカだけでなく、イギリスや中国やソ連など多くの国に敗北したことになる。しかし、日本軍を打ち破った軍事力は圧倒的にアメリカ軍の力だった。それはイギリスやソ連も認めざるを得なかったから、日本の占領はアメリカ軍が中心になった。そして占領終了後も日米安全保障条約を結ぶことで、アメリカ軍が戦後75年を経ても日本に駐留し続けている。
そういう経緯を振り返り、特に沖縄の米軍基地問題を思えば、戦後日本は「アメリカの勢力圏」だと考えられる。ウクライナ問題で判ることは「ロシアが攻めてくる危険性」ではない。アメリカの勢力圏である日本を攻撃すれば、ロシアが負う傷の方が大きい。しかし、日本は主権国家なのだから、日本の防衛政策を自国の有権者が決める権利を持っている。「日米安保条約を廃棄して、中国と同盟を結ぶ」ことも可能なはずである。そのような反米親中政権が選挙によって合法的に成立し、日米安保条約廃棄を通告したものの、アメリカ軍が撤退せず日本政府を武力で打倒しようと東京に向かって進軍中。あえてウクライナ戦争を日本に当てはめれば、以上のような事態のはずである。
もちろん、そんな事態は起こらない。日米安保条約を廃棄するという主張はあっても、その後は「中立」をイメージしているだろう。「勢力圏」を変えるという主張を掲げる政党はないし、あっても政権を取るとは考えられない。ウクライナの人々がロシアに抵抗して「真の独立」を求めている姿を見て思うのは、果たして「日本は真に独立しているのだろうか」ということだ。沖縄県で米軍からコロナ禍が広まった(と思える)のを見ても、日米地位協定の改定程度のことも提起できないのでは、日本は独立しているのかと思う。沖縄の現状に何の思いも寄せずに、中国が攻めてくるなどと言い募るのは、「独立」よりも「従属」を求めることだ。