ロシアでは毎日のように反戦デモが行われている。ヴェトナム反戦運動がアメリカで盛り上がるまでにはかなり長い時間が掛かった。今回はまだ少数勢力ではあるけれど、開戦当初から厳しい政治環境の中で反戦デモが各地で起こっている。ロシア軍に被害が出ていることをロシア当局も認めざるを得なくなっている。演習だと言われて訓練中の息子が死体となって帰ってきた母親は、プーチンを支持するか、それともプーチンに怒りをぶつけるか。両国の間には深いつながりがあるが、だからこそ戦争という手段に訴えたプーチン政権には疑問を感じるロシア国民も多いだろう。
(ロシアで起こった反戦デモ)
プーチン演説では「ロシアと自国民を守るためにはこの手段しか残されていない。ドンバスの共和国はロシアに助けを求めており、迅速な行動を取る必要がある。」と「自衛」を主張している。ウクライナ東部で「ロシアに希望を持つ100万人の人々へのジェノサイド(民族大量虐殺)を止めなければならない。ドンバスの人民共和国の独立を認めたのは、こうした人々の望みや苦痛が理由だ。」「NATOの主要国はウクライナの極右勢力とネオナチグループを支援し、こうしたグループは、クリミアの人々がロシアに再統合するという選択を、自由にすることを決して許さないだろう。」「ロシアがこうした勢力と衝突することは避けられない。それは時間の問題で、核兵器の所有すら要求している。われわれはこれを認めない。」と述べる。
今までのあらゆる戦争と同じくロシアは「自衛戦争」を主張するが、それはどこまで正当性を持つのだろうか。ウクライナ東部で「虐殺」があったという主張は、僕は最近になって初めて聞いたが、それは本当なのか。仮にそのような虐殺があったとしても、それは東部を攻略する理由にこそなれ、首都キエフを直接攻撃する理由になるのだろうか。そこでウクライナ政府そのものの批判を繰り広げる。そもそもウクライナは国家としてダメなのだと言っているが、特に2014年の政変(マイダン革命)以後は「ネオナチ」が勢力を握ると決めつける。しかし、仮に隣国が「ネオナチ」政権だったら、侵攻して打倒しても許されるのか。
(ウクライナ東部の地図)
このような疑問がプーチンの主張にはいっぱい思い浮かぶが、日本では案外「ウクライナやアメリカにも責任がある」などと言っている人がいる。交渉ごとでは両者にそれぞれ幾分かの責任があるものだろう。その意味では戦争の前段階でウクライナ側の対応が適切だったか、やがて検証が必要だろう。しかし、今回はウクライナを取り巻くようにロシア軍が「演習」と称して大軍を配置していた。それは「武力による脅し」であって国連憲章違反である。アメリカも様々に関わっているのかと思うが、しかし、ロシア軍に侵攻を命じられるのはロシア軍最高司令官のプーチン大統領だけである。アメリカだろうが、他のどこだろうが、ロシア軍には命令できない。ロシア軍の行動にロシア以外は責任を持たない。
今回日本の衆参両院では、「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」が採択されたが、これは両院とも全会一致ではなかった。「れいわ新選組」が反対したのである。「ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める立場」としながらも、「一刻も早く異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議でなければ、また、言葉だけのやってる感を演出する決議になってしまう」と言っている。しかし、日本の国会決議に即時的有効性があるわけがない。こういう考え方に立てば、あらゆる国会決議に反対しなければならない。
ホームページにある「声明」には「今回の惨事を生み出したのはロシアの暴走、という一点張りではなく、米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せず、を反故にしてきたことなどに目を向け、この戦争を終わらせるための真摯な外交的努力を行う」とある。恐らくこの「ロシアの暴走、という一点張りではなく」という部分に反対の真意があるのだと思う。しかし、そう考えることには大きな問題があると僕は考える。ちょっと前に、ウクライナのNATO加盟を認めるのは「挑発」にすぎると僕も書いたが、それは戦争以前である。ウクライナの「中立化」が意味を持ったのはロシアの侵攻までだ。現にロシア軍が攻撃しているとき、ウクライナ国民は「中立化」を望むだろうか。ウクライナ国民に押しつける「中立」とは、実はロシアに対する従属ではないのか。
(東部地域の戦闘とされる画像)
ロシアが主張する「東部地域の虐殺」は、ロシアによるフェイクニュースだろう。そもそもドネツク、ルガンスクの「人民共和国」とは、ロシアがでっち上げた「偽国家」である。ウクライナ側からすれば「反乱軍占拠地域」である。停戦協定はあったものの、軍事的衝突は起こっていただろう。ウクライナ軍と衝突すれば、武力組織に死傷者が出ることはある。それを「虐殺」と誇張しているのだと思われる。「虐殺」という以上は民間人への無差別的な攻撃があったと証明しなければならない。
今まで歴史上で「虐殺」が起こったとき、被害者名までは特定できないとしても、場所と時間は特定されていた。イラクのフセイン政権がクルド人に行った毒ガス攻撃。アメリカ軍がヴェトナム戦争中に起こした虐殺事件。「満州事変」や日中戦争中に日本軍が起こした幾つもの虐殺事件。詳細が不明のものもあるが、おおよその日時や場所は判明している。そしてナチスドイツがウクライナに侵攻したとき、キエフのバビ・ヤール渓谷で起こしたユダヤ人大虐殺事件。これは1941年9月29日から30日にかけて行われ、一晩で10万人が殺害されたと言われる。ホロコーストの中で一日で殺害された最大人数とされる。ソ連崩壊後、バビ・ヤール地区に多くのユダヤ人追悼碑が建設されたが、今回ロシア軍は同地区を空爆し被害が出ているらしい。どっちがナチスだよと思う。
日米戦争でも、同じように「日本は被害者だった」「自衛戦争だ」「アメリカの謀略だった」などと言う人がいる。真珠湾攻撃についても、ルーズヴェルト大統領は知っていたとか、自国を戦争に参加させるため日本を挑発したなど、いろいろと言う人がいる。そりゃあ、アメリカはいろいろ情報活動を行っていたに違いないが、だからといって日本は自国で決断して米英に宣戦布告したのである。当たり前のことだが、ルーズヴェルトは帝国海軍連合艦隊に命令できない。真珠湾攻撃を承認できるのは、大元帥(昭和天皇)だけである。今回も裏で何があろうが、国連憲章違反の攻撃を命じられるのは、プーチン大統領だけだという冷厳たる事実は動かしようがない。「どっちもどっち」は歴史修正主義につながる発想である。右だけでなく左にも歴史修正主義がある。
(ロシアで起こった反戦デモ)
プーチン演説では「ロシアと自国民を守るためにはこの手段しか残されていない。ドンバスの共和国はロシアに助けを求めており、迅速な行動を取る必要がある。」と「自衛」を主張している。ウクライナ東部で「ロシアに希望を持つ100万人の人々へのジェノサイド(民族大量虐殺)を止めなければならない。ドンバスの人民共和国の独立を認めたのは、こうした人々の望みや苦痛が理由だ。」「NATOの主要国はウクライナの極右勢力とネオナチグループを支援し、こうしたグループは、クリミアの人々がロシアに再統合するという選択を、自由にすることを決して許さないだろう。」「ロシアがこうした勢力と衝突することは避けられない。それは時間の問題で、核兵器の所有すら要求している。われわれはこれを認めない。」と述べる。
今までのあらゆる戦争と同じくロシアは「自衛戦争」を主張するが、それはどこまで正当性を持つのだろうか。ウクライナ東部で「虐殺」があったという主張は、僕は最近になって初めて聞いたが、それは本当なのか。仮にそのような虐殺があったとしても、それは東部を攻略する理由にこそなれ、首都キエフを直接攻撃する理由になるのだろうか。そこでウクライナ政府そのものの批判を繰り広げる。そもそもウクライナは国家としてダメなのだと言っているが、特に2014年の政変(マイダン革命)以後は「ネオナチ」が勢力を握ると決めつける。しかし、仮に隣国が「ネオナチ」政権だったら、侵攻して打倒しても許されるのか。
(ウクライナ東部の地図)
このような疑問がプーチンの主張にはいっぱい思い浮かぶが、日本では案外「ウクライナやアメリカにも責任がある」などと言っている人がいる。交渉ごとでは両者にそれぞれ幾分かの責任があるものだろう。その意味では戦争の前段階でウクライナ側の対応が適切だったか、やがて検証が必要だろう。しかし、今回はウクライナを取り巻くようにロシア軍が「演習」と称して大軍を配置していた。それは「武力による脅し」であって国連憲章違反である。アメリカも様々に関わっているのかと思うが、しかし、ロシア軍に侵攻を命じられるのはロシア軍最高司令官のプーチン大統領だけである。アメリカだろうが、他のどこだろうが、ロシア軍には命令できない。ロシア軍の行動にロシア以外は責任を持たない。
今回日本の衆参両院では、「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」が採択されたが、これは両院とも全会一致ではなかった。「れいわ新選組」が反対したのである。「ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める立場」としながらも、「一刻も早く異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議でなければ、また、言葉だけのやってる感を演出する決議になってしまう」と言っている。しかし、日本の国会決議に即時的有効性があるわけがない。こういう考え方に立てば、あらゆる国会決議に反対しなければならない。
ホームページにある「声明」には「今回の惨事を生み出したのはロシアの暴走、という一点張りではなく、米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せず、を反故にしてきたことなどに目を向け、この戦争を終わらせるための真摯な外交的努力を行う」とある。恐らくこの「ロシアの暴走、という一点張りではなく」という部分に反対の真意があるのだと思う。しかし、そう考えることには大きな問題があると僕は考える。ちょっと前に、ウクライナのNATO加盟を認めるのは「挑発」にすぎると僕も書いたが、それは戦争以前である。ウクライナの「中立化」が意味を持ったのはロシアの侵攻までだ。現にロシア軍が攻撃しているとき、ウクライナ国民は「中立化」を望むだろうか。ウクライナ国民に押しつける「中立」とは、実はロシアに対する従属ではないのか。
(東部地域の戦闘とされる画像)
ロシアが主張する「東部地域の虐殺」は、ロシアによるフェイクニュースだろう。そもそもドネツク、ルガンスクの「人民共和国」とは、ロシアがでっち上げた「偽国家」である。ウクライナ側からすれば「反乱軍占拠地域」である。停戦協定はあったものの、軍事的衝突は起こっていただろう。ウクライナ軍と衝突すれば、武力組織に死傷者が出ることはある。それを「虐殺」と誇張しているのだと思われる。「虐殺」という以上は民間人への無差別的な攻撃があったと証明しなければならない。
今まで歴史上で「虐殺」が起こったとき、被害者名までは特定できないとしても、場所と時間は特定されていた。イラクのフセイン政権がクルド人に行った毒ガス攻撃。アメリカ軍がヴェトナム戦争中に起こした虐殺事件。「満州事変」や日中戦争中に日本軍が起こした幾つもの虐殺事件。詳細が不明のものもあるが、おおよその日時や場所は判明している。そしてナチスドイツがウクライナに侵攻したとき、キエフのバビ・ヤール渓谷で起こしたユダヤ人大虐殺事件。これは1941年9月29日から30日にかけて行われ、一晩で10万人が殺害されたと言われる。ホロコーストの中で一日で殺害された最大人数とされる。ソ連崩壊後、バビ・ヤール地区に多くのユダヤ人追悼碑が建設されたが、今回ロシア軍は同地区を空爆し被害が出ているらしい。どっちがナチスだよと思う。
日米戦争でも、同じように「日本は被害者だった」「自衛戦争だ」「アメリカの謀略だった」などと言う人がいる。真珠湾攻撃についても、ルーズヴェルト大統領は知っていたとか、自国を戦争に参加させるため日本を挑発したなど、いろいろと言う人がいる。そりゃあ、アメリカはいろいろ情報活動を行っていたに違いないが、だからといって日本は自国で決断して米英に宣戦布告したのである。当たり前のことだが、ルーズヴェルトは帝国海軍連合艦隊に命令できない。真珠湾攻撃を承認できるのは、大元帥(昭和天皇)だけである。今回も裏で何があろうが、国連憲章違反の攻撃を命じられるのは、プーチン大統領だけだという冷厳たる事実は動かしようがない。「どっちもどっち」は歴史修正主義につながる発想である。右だけでなく左にも歴史修正主義がある。