ウクライナ戦争を5回続けたので、重大事態が起きれば別だが一端中断したい。5回目にアメリカと中国が今回の事態にどのように対応するかを考えたい。アメリカは昨年末から何回もロシアの侵攻を警告してきた。ウクライナのゼレンスキー大統領が戦争をあおると批判したぐらいである。北京五輪中にも侵攻するという情報は当たらなかったが、その後、プーチン大統領はすでに侵攻を決定したとか、数日内に侵攻があるなどとバイデン大統領が断定的に警告した。結果的にアメリカ情報は全く正しかった。
中国はアメリカの情報機関はイラク戦争で全く間違えたと批判して、ウクライナ情報も信用度は低いと述べていた。では何でアメリカは今回正しい情報をつかむことができたのか。国境地帯に大軍が集結していることは、衛星写真によって証明出来る。しかし、その大軍が国境を越えて侵攻に踏み切るかは、普通の公開情報ではつかみにくい。現地の軍の情報だけでは「重大な演習を行っている」と言われたら、それ以上の判断は出来ないだろう。だから、よほど大統領周辺の情報が伝わったのである。
真相は何十年も明らかにならないと思うが、アメリカは携帯電話やパソコンなどを監視しているとスノーデンが告発している。しかし、これほど重大な、それも大統領個人の「決心」という重大情報を外部から把握出来るものだろうか。アメリカが確信を持って断言するということは、ロシアの相当上位の人物から正しい情報が伝えられていたと考えられる。その情報がウクライナや世界を脅す目的の情報操作である可能性もありうるが、その心配の必要がないほどの「確証」が存在したのだろう。ウクライナ侵攻によって完全に世界を敵に回して、ロシアが経済的に破滅する事を恐れる「ロシア政府内部の愛国者」がいたのではないか。あえて世界に情報を流して戦争を止めようとして失敗したのである。
僕は現在そのように推測しているのだが、当たっているかどうかは判らない。ただ(徴兵制度によって)士気が上がらない兵士を抱える軍部や、経済制裁や資産凍結によって大損害を受ける新興財閥層に戦争を忌避する気分は存在すると思う。そこでアメリカの基本方針は、「軍事介入はしない」「経済制裁によって追いつめる」と表面的には掲げながら、「プーチン排除」を目指すのではないか。「プーチン大統領の暴走」が戦争の悲劇をもたらしている、しかし「プーチン以外が正しい道を選択するなら一緒にやっていける」ということである。
(一般教書演説のバイデン大統領)
バイデン大統領は一般教書演説で「侵略者に代償を払わせる」と語った。侵略者とはプーチン個人ということになるだろう。現時点でロシアで大規模な反戦デモが起こり政権交代をもたらす、つまり東欧各地で起こった民主革命(カラー革命)が起きる可能性はほとんどないと思われる。だから「宮廷クーデター」方式しかありない。秋の中間選挙には間に合わないと思うが、2024年までにロシアの体制変換がない限り、制裁で原油価格が上昇するなどの経済悪化が大統領選挙に悪影響を与える。
ウクライナが早期に「降伏」してしまい、「かいらい政権」がクリミア半島の割譲、東部2州の「独立」を認める講和条約を結んでしまうと、事態の長期化が避けられない。当面はそれを避けるために、ウクライナへの軍事的支援も拡大するのではないか。もっとも直接介入はしないとしていても、ウクライナにある米国外交施設(あるいは米国系企業の施設)が「偶発的に」攻撃されたりすれば、米国内で一気に「報復感情」が湧き上がることもありうる。ロシア軍も反米感情が高まって、偶発を装って故意に米大使館を空爆したりする可能性がある。歴史ではほんのちょっとした出来事で戦争が激化してしまったことがある。今のところ欧米は軍事的介入はしないとしているが、何があるかは予測不能と覚悟しておく必要がある。
(北京冬季五輪開会式に参加する中ロ首脳)
ウクライナ戦争の隠れた主役は中国だろう。中国はアメリカの警告を一貫して否定してきた。それは間違いなく本気だったらしく、他の主要諸国が自国民に「退避勧告」を出した後も中国は何もしなかった。その結果ウクライナ国内には6千名の中国国民が取り残されたという。その後、どれだけ国外に脱出できたか情報はないが、中国もプーチンに欺されたわけである。最近になって、中国が五輪中は侵攻しないようにロシアに要求していたという報道があった。公には否定したものの、実際に「16日にも」というバイデンが予告した最初の日程には侵攻がなかった。パラリンピック開始までには終わっているという当初の目論みだったとすれば、ロシアが侵攻を少し延ばした可能性がある。
(五輪中の侵攻中止を要請か)
中国もホンネでは何というバカなことを始めたのかと思っているだろう。中国としては北京冬季五輪・パラリンピックを「成功」させ、全人代を乗り切って、内外ともに平穏な環境で秋の共産党大会を迎えるというのが当初の目論みだったろう。余計な戦争を始めやがってと思うだろうが、同時にアメリカにもロシアにも与しない、あるいは「どっちにも恩を売れる」機会にしたい。一方でウクライナは「一帯一路」に重要な役割を果たす重要国と位置づけてきた。ロシアほどの重要性はないと言っても、世界にはウクライナへの同情が湧き上がっている。あまりに親ロシア的姿勢を見せてしまうと、やはり中国は人権を重視しない独自の独裁国家だという批判を呼びかねない。兼ね合いが難しいが、中国(共産党指導部)が最も重視するのは「プーチンじゃなくてもいいけれど、親欧米の民主主義国家になっては困る」という点だと思う。
ロシアに対する経済制裁は安保理では(ロシアの拒否権で)決定できない。だから、現在言われている制裁というのは、G7が中心になって独自に課しているものである。安保理決定には拘束力があるが、それがない以上中国がロシアと貿易するのは自由である。もともと中国はここ10年以上、ロシアにとって最大の貿易相手国だった。欧米日が経済制裁を課しても、当面は中国から代替できるだろう。しかし、中国経由でロシア貿易が行われるようになり、特に高級ブランドなどが流れるようになると批判が強くなる。ブランドイメージを大切にするため、中国との取引も控える企業が出て来ると思われる。中国もロシア以外との取引の方が多いわけで、あまりロシア経済を丸抱えしたくないだろう。
中国が安保理決議で「棄権」したのは、「欧米に賛成しなかった」というよりも「ロシアと一緒に反対しなかった」という意味合いの方が大きい。北京五輪開会式に参列したプーチンに中国は恩義があるが、今回はあまりロシアべったりではない感じも受ける。今後中国が「ウィグル」「台湾」「チベット」などで欧米に制裁を課されたとして、その時自国にどれだけ影響があるのか、その予行練習としてじっくり見ているという感じか。
ただし、ロシアがFacebookやTwitterを使用できなくしている中で、「中ロで使えるSNS」と「中ロ以外で使えるSNS」に分かれてしまう可能性がある。ITだけでなく、様々な分野で同じように世界の分断が定着してしまうと、数年間で完全に理解不能な二つの世界が形成される恐れがある。なかなか難しい課題を抱えて、世界は今まで経験したことがないような段階に入っている。
中国はアメリカの情報機関はイラク戦争で全く間違えたと批判して、ウクライナ情報も信用度は低いと述べていた。では何でアメリカは今回正しい情報をつかむことができたのか。国境地帯に大軍が集結していることは、衛星写真によって証明出来る。しかし、その大軍が国境を越えて侵攻に踏み切るかは、普通の公開情報ではつかみにくい。現地の軍の情報だけでは「重大な演習を行っている」と言われたら、それ以上の判断は出来ないだろう。だから、よほど大統領周辺の情報が伝わったのである。
真相は何十年も明らかにならないと思うが、アメリカは携帯電話やパソコンなどを監視しているとスノーデンが告発している。しかし、これほど重大な、それも大統領個人の「決心」という重大情報を外部から把握出来るものだろうか。アメリカが確信を持って断言するということは、ロシアの相当上位の人物から正しい情報が伝えられていたと考えられる。その情報がウクライナや世界を脅す目的の情報操作である可能性もありうるが、その心配の必要がないほどの「確証」が存在したのだろう。ウクライナ侵攻によって完全に世界を敵に回して、ロシアが経済的に破滅する事を恐れる「ロシア政府内部の愛国者」がいたのではないか。あえて世界に情報を流して戦争を止めようとして失敗したのである。
僕は現在そのように推測しているのだが、当たっているかどうかは判らない。ただ(徴兵制度によって)士気が上がらない兵士を抱える軍部や、経済制裁や資産凍結によって大損害を受ける新興財閥層に戦争を忌避する気分は存在すると思う。そこでアメリカの基本方針は、「軍事介入はしない」「経済制裁によって追いつめる」と表面的には掲げながら、「プーチン排除」を目指すのではないか。「プーチン大統領の暴走」が戦争の悲劇をもたらしている、しかし「プーチン以外が正しい道を選択するなら一緒にやっていける」ということである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/73/2b/1b4b4851b1d650ed00b5964f0ad7e503_s.jpg)
バイデン大統領は一般教書演説で「侵略者に代償を払わせる」と語った。侵略者とはプーチン個人ということになるだろう。現時点でロシアで大規模な反戦デモが起こり政権交代をもたらす、つまり東欧各地で起こった民主革命(カラー革命)が起きる可能性はほとんどないと思われる。だから「宮廷クーデター」方式しかありない。秋の中間選挙には間に合わないと思うが、2024年までにロシアの体制変換がない限り、制裁で原油価格が上昇するなどの経済悪化が大統領選挙に悪影響を与える。
ウクライナが早期に「降伏」してしまい、「かいらい政権」がクリミア半島の割譲、東部2州の「独立」を認める講和条約を結んでしまうと、事態の長期化が避けられない。当面はそれを避けるために、ウクライナへの軍事的支援も拡大するのではないか。もっとも直接介入はしないとしていても、ウクライナにある米国外交施設(あるいは米国系企業の施設)が「偶発的に」攻撃されたりすれば、米国内で一気に「報復感情」が湧き上がることもありうる。ロシア軍も反米感情が高まって、偶発を装って故意に米大使館を空爆したりする可能性がある。歴史ではほんのちょっとした出来事で戦争が激化してしまったことがある。今のところ欧米は軍事的介入はしないとしているが、何があるかは予測不能と覚悟しておく必要がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/3f/e8/3ebfbedff96931b041cc56ab450c09d8_s.jpg)
ウクライナ戦争の隠れた主役は中国だろう。中国はアメリカの警告を一貫して否定してきた。それは間違いなく本気だったらしく、他の主要諸国が自国民に「退避勧告」を出した後も中国は何もしなかった。その結果ウクライナ国内には6千名の中国国民が取り残されたという。その後、どれだけ国外に脱出できたか情報はないが、中国もプーチンに欺されたわけである。最近になって、中国が五輪中は侵攻しないようにロシアに要求していたという報道があった。公には否定したものの、実際に「16日にも」というバイデンが予告した最初の日程には侵攻がなかった。パラリンピック開始までには終わっているという当初の目論みだったとすれば、ロシアが侵攻を少し延ばした可能性がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/06/a2/a9e856e4f366cebd1792fc6a3a64955f_s.jpg)
中国もホンネでは何というバカなことを始めたのかと思っているだろう。中国としては北京冬季五輪・パラリンピックを「成功」させ、全人代を乗り切って、内外ともに平穏な環境で秋の共産党大会を迎えるというのが当初の目論みだったろう。余計な戦争を始めやがってと思うだろうが、同時にアメリカにもロシアにも与しない、あるいは「どっちにも恩を売れる」機会にしたい。一方でウクライナは「一帯一路」に重要な役割を果たす重要国と位置づけてきた。ロシアほどの重要性はないと言っても、世界にはウクライナへの同情が湧き上がっている。あまりに親ロシア的姿勢を見せてしまうと、やはり中国は人権を重視しない独自の独裁国家だという批判を呼びかねない。兼ね合いが難しいが、中国(共産党指導部)が最も重視するのは「プーチンじゃなくてもいいけれど、親欧米の民主主義国家になっては困る」という点だと思う。
ロシアに対する経済制裁は安保理では(ロシアの拒否権で)決定できない。だから、現在言われている制裁というのは、G7が中心になって独自に課しているものである。安保理決定には拘束力があるが、それがない以上中国がロシアと貿易するのは自由である。もともと中国はここ10年以上、ロシアにとって最大の貿易相手国だった。欧米日が経済制裁を課しても、当面は中国から代替できるだろう。しかし、中国経由でロシア貿易が行われるようになり、特に高級ブランドなどが流れるようになると批判が強くなる。ブランドイメージを大切にするため、中国との取引も控える企業が出て来ると思われる。中国もロシア以外との取引の方が多いわけで、あまりロシア経済を丸抱えしたくないだろう。
中国が安保理決議で「棄権」したのは、「欧米に賛成しなかった」というよりも「ロシアと一緒に反対しなかった」という意味合いの方が大きい。北京五輪開会式に参列したプーチンに中国は恩義があるが、今回はあまりロシアべったりではない感じも受ける。今後中国が「ウィグル」「台湾」「チベット」などで欧米に制裁を課されたとして、その時自国にどれだけ影響があるのか、その予行練習としてじっくり見ているという感じか。
ただし、ロシアがFacebookやTwitterを使用できなくしている中で、「中ロで使えるSNS」と「中ロ以外で使えるSNS」に分かれてしまう可能性がある。ITだけでなく、様々な分野で同じように世界の分断が定着してしまうと、数年間で完全に理解不能な二つの世界が形成される恐れがある。なかなか難しい課題を抱えて、世界は今まで経験したことがないような段階に入っている。