尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ウクライナ戦争、「泥沼化」の可能性ー戦争のシナリオ②

2022年03月28日 22時44分48秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争の行方について、「突然終わる可能性」を1回目に書いたけれど、それで完全に終わる性格のものではない。ウクライナは東部2州の「分離独立」(その後しばらくすれば、ロシアに併合されるだろう)を認めることは出来ない。ゼレンスキー政権が仮に承諾しても、国民投票では否決されるだろうし、国会で講和条約が批准されるとは思えない。逆にロシア側からしても、一度は独立まで承認した東部2州をウクライナに「返還」するはずがない。他にもロシアがでっち上げた「偽国家」はいくつもある。ロシアは徹底的にロシア系の「分離主義者」を守ろうとするはずだ。では、どうなるのか。

 どうにもならないから、「泥沼化」するということになる。ウクライナがロシア軍を国境の外へ追い出すのは、今のところ難しいと思われる。一方、ロシア軍がウクライナ全土を占領するのも大変そうだ。そもそも首都を制圧することによって、ウクライナを「正常化」することが当初の目標だったのではないかと思われる。政権を取り替えて「かいらい政権」を樹立すれば、全土を占領する必要はない。苦労の多い地方統治はかいらい政権に任せればいいのだから。しかし、ゼレンスキー政権の打倒は難しくなりつつある。(ロシアによる暗殺計画が何度も計画されたと言われるので、今後政権中枢へのテロが起こる可能性は否定できないが。)
(西部のリビウへのミサイル攻撃=26日)
 つまり、ウクライナ情勢は「中期的には泥沼化せざるを得ない」性格を持っている。しかし、そのために日々ロシア軍が都市を攻撃し、多くの死傷者が出る事態を続けていて良いのか。良いはずがないが、攻撃を命じたプーチン政権が戦争を止めない限り戦争は続く。その結果、ロシアに対する経済制裁もどんどん強化されていく。ロシアにとっても、それは好ましくないだろうから、どこかで妥協がなされる。合理的判断で考えれば、そうなるはずだが、合理的判断が出来るなら戦争自体が起こらない。プーチン大統領や政権中枢には、それだけの判断が難しい段階になっているのか。

 第二次大戦末期の1945年2月、もう日本軍は敗戦必至だった。その時近衛文麿元首相が昭和天皇に早期講和を上奏したところ、天皇は「もう一度戦果を挙げてからでないとむずかしい」と語ったと伝えられる。追いつめられた帝国日本と今のロシアでは置かれた事情が違うが、それでも指導者の発想は似ているものだ。今後の戦況がどうなろうと、最終的にはウクライナとの交渉が必要となる。しかし、交渉をより有利に進めるには、「軍事的勝利」、もっと正確に言えば「占領地の拡大」が絶対条件になる。

 軍の指導部は「出来ません」とは言えない。軍、情報関係者が「ウクライナ制圧は短期間で可能」と進言したから、戦争が始まったんだろう。誤算はいろいろとあっただろうが、今さら泣き言は言えない。「もう少しで出来ます」と言い続ける。我々は間違えたと内心で思っても、大っぴらに発言出来る状況ではないだろう。かくして停戦がまとまらず、ダラダラと戦闘が長く続く。3ヶ月、半年と戦争が続いていき、解決の兆しが見えなくなる。まあ、日中戦争の経過と似たようなことになる。

 このような「泥沼化」はあり得るシナリオだろう。プーチンが決断しない限り、この可能性が高い。その場合、今はまだロシアにとって「遠くで起こっている戦争」に近いが、ロシアの経済的困窮が深まっていき、「国家総動員体制」の構築が迫られる。ロシア国内の締め付けは今以上に強まり、完全に戦時独裁政権となる。それが経済的に世界が密接に結びついた21世紀に起こりうるだろうか。僕にはそこまでは何とも判断が付かない。ただ、現時点では「停戦」しても、完全な解決がすぐに実現出来るとは思えない。

 「ロシアの一方的停戦」「停戦しないまま泥沼化」の二つ以外の可能性は少ないと思う。例えば、ロシアが周辺国を攻撃し、NATOが応戦する可能性。ミサイルがポーランドに誤爆されることは絶対にないとは言えない。ただ、それが本格戦争に発展する可能性は低いと思われる。どちら側も「偶発」として処理するのではないか。今の段階ではウクライナ側で政変が起こって、より妥協的またはより好戦的な政権が成立することは考えなくていいだろう。ウクライナ側がロシア領内にミサイルを発射することも考えにくい。周辺諸国のあっせんによって解決する、あるいは国連の関与で停戦する可能性も難しい。結局、ひとたび武力を発動してしまった以上は、外交的手段のみで解決することは出来ない。残念ながら、それが現時点の見通しだと思う。
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