尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ウクライナ「冬の陣」、突然終わる可能性もー戦争のシナリオ①

2022年03月27日 23時02分10秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争に関して、考えるべきことが幾つもある。事態の本質をどう理解するか世界各国の対ロシア姿勢の分析日本国内の言論状況の考察などなどだが、まあ順番に少しずつ書いていきたい。多くの人はまず「これからどうなるか」が気になるだろう。そういうことを書いても数ヶ月すれば、予測の当たり外れははっきりしてしまう。どっちになっても、もうその記事は読まれない。だからあまり書きたくないんだけど、一応準備しておく必要もあるから書いておきたい。

 当初はロシア軍が首都キエフを簡単に制圧すると思われていたが、1ヶ月経って首都攻防戦は停滞している。ロシア軍が攻撃しないからなのか、出来ない事情があるのかは判らない。現時点では東部のマリウポリが焦点になっている。黒海の奥の方にクリミア半島とロシアに囲まれた「アゾフ海」という内海がある。マリウポリはそのアゾフ海に面した港湾都市で、戦争前は50万人ほどの人口があった。クリミアドンバス(ドネツク、ルガンスク両州)を結ぶ交通の要衝で戦略上の重要地になる。
(ウクライナ戦争地図)(マリウポリの攻撃)
 ウクライナ戦争の行く末をはっきり示すのは難しい。そもそも何で始まったのかも、未だによく理解出来ない人が多いだろう。結局ロシアのプーチン大統領が何を考えているのか、それが判らないわけである。政治・経済・軍事的な合理的要因だけでは、戦争が理解出来ない。だから「プーチンはすでに合理的な判断が出来ない状態になっている」という分析もある。でも、まあパワハラ的言動が増えたり、苛ついたりすることはあるだろうが、精神的に破綻しているとまで見るのは行きすぎだろう。

 そこで注目されるのが、25日に行われたロシア軍参謀本部のルツコイ作戦総司令部長の記者会見である。「作戦の第1段階の任務は総じて達成された」と述べ、今後は「ドネツク、ルガンスク両州の解放に集中することが可能になった」と述べた。その前からロシアはキエフ制圧を断念し東部攻撃に集中するのではという観測があった。正式に記者会見したということは、その観測を裏付けたものだと言ってよい。この発言は何を意図しているのだろうか。
(記者会見するルツコイ氏)
 僕は前から思っているのだが、ロシア軍のウクライナ侵攻が「突然終わる可能性」を考えて置くべきではないか。世界には「泥沼化する」という観測が多いようだが、ロシアが一方的に戦闘を打ち切る可能性も事前に考えておかないといけない。あらゆる戦争は勝つためにやるのであって、やってみたら負けてしまいましたというわけにはいかない。プーチンも負けを認める事態になったら、権力基盤が揺らぐと考えられる。だけどスポーツと違って、戦争の勝ち負けははっきりした点数では示されない。だからプーチンが勝ったと言って、周りも認めれば取りあえずロシア内部では勝ち扱いに出来る
 
 かつて「中越戦争」と言う戦争があった。(1979年に中国がヴェトナムに侵攻した戦争。カンボジアに侵攻したヴェトナムを中国が「懲罰する」と始めたが苦戦した。約一ヶ月後に中国は懲罰完了を宣言して撤退した。)同じように、今回もプーチンによる「ウクライナ懲罰戦争」の要素がある。それだけではないと思うが、今回もプーチンが一方的に勝利を宣言して攻撃を終了する可能性を考えて置くべきではないか。事前にロシア側は例えば「ゼレンスキー大統領打倒」などといった具体的なことは言ってない。東部を確保して「ロシアの安全は確保された」「大勝利だ」と言えば、取り巻きは「プーチン万歳」となる。

 しかし、ぼくはそれで全部解決するとは言わない。キエフ周辺からはベラルーシに軍を引き揚げるかもしれないが、東部戦線からは引き揚げないだろう。だから停戦後の和平交渉は行き詰まると考えられる。つまり「ウクライナ冬の陣」は終わるが、いずれ「夏の陣」があると想定される。「冬の陣」「夏の陣」というのは徳川家康からの連想で、必ずしも今年や来年の夏という意味ではない。ただその間、「外堀を埋める」か「惣堀を埋める」かの欺し合いが起こるわけである。

 そしてウクライナ弱体化に一定のメドを付けて、次の侵攻が始まる。ウクライナ側がクリミアや東部2州のロシア帰属を認めるはずがないから、また何らかの戦いが予測されるわけだが、取りあえず今回の戦闘が一方的に停戦となったら、世界はどう対応するだろうか。当初はともかく、夏頃になれば次第に不和が表面化するのではないか。ロシアからの天然ガスや小麦がないと、世界経済が大混乱する、戦闘が終われば制裁は解除してもいいのでは。そういう声に対して、きちんとした停戦実現までは待つべきだ。いやプーチンは信用出来ないから、プーチンいる限り制裁は解除してはならない。様々な声が上がるだろう。

 ロシアが国際世論を「分断」するためには、この一方的勝利宣言に戦略的有効性があると思うのだが、必ずそうなると思っているわけでもない。シナリオ②は「泥沼化」だろうし、シナリオ③の「破滅的大戦争」も絶対にないとは言えない。そこら辺を次に考えたいと思う。
コメント
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