このマラルメと云う人にも多くの若い崇拝者がありました。その人達はよく
彼の家に集まって、彼の談話に耳を傾ける宵を更(ふか)したのですが、
如何に多くの人が押し懸けても、彼の坐るべき場所は必ず暖炉の傍で、彼の
腰を卸すのは必ず一箇の揺椅(ゆりいす)と極っていました。(中略)
ところがある晩新しい客が来ました。たしか英吉利のシモンズだったという話
ですが、、(略)マラルメの坐るべきかの特別の椅子へ腰を掛けてしまいまし
た。マラルメは不安になりました。何時ものように話に実が入りませんでした。
一座は白けました。
「何という窮屈な事だろう」
私はマラルメの話をした後で、こういう一句の断案を下しました。そうして
兄さんに向って、「君の窮屈な程度はマラルメよりも烈しい」と云いました。
(夏目漱石 『行人』三十八より)
***
「死ぬか、気が違うか、…」
行く途の選択についてこう悩んだ〈兄さん〉、、、
漱石には、、『硝子戸の中』という作品がある。。
彼は、、、そこで、しずかに微笑している。
彼の家に集まって、彼の談話に耳を傾ける宵を更(ふか)したのですが、
如何に多くの人が押し懸けても、彼の坐るべき場所は必ず暖炉の傍で、彼の
腰を卸すのは必ず一箇の揺椅(ゆりいす)と極っていました。(中略)
ところがある晩新しい客が来ました。たしか英吉利のシモンズだったという話
ですが、、(略)マラルメの坐るべきかの特別の椅子へ腰を掛けてしまいまし
た。マラルメは不安になりました。何時ものように話に実が入りませんでした。
一座は白けました。
「何という窮屈な事だろう」
私はマラルメの話をした後で、こういう一句の断案を下しました。そうして
兄さんに向って、「君の窮屈な程度はマラルメよりも烈しい」と云いました。
(夏目漱石 『行人』三十八より)
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「死ぬか、気が違うか、…」
行く途の選択についてこう悩んだ〈兄さん〉、、、
漱石には、、『硝子戸の中』という作品がある。。
彼は、、、そこで、しずかに微笑している。