この本、 「大リーグが大好き!」でお馴染みの向井万起男さんのコラムで知って(http://www.asahi.com/articles/DA3S11160593.html)、 野球に関する内容はともかく(←私が大リーグ未熟者なので) 訳者が 『イギリス人の患者』や『アンジェラの灰』などでとても好きになった土屋政雄さんだったので、 すぐに(読みたい!)と思いました。
ストーリーは「痩せっぽちの高校生」でありながら、 遊撃手としての守備は最高のヘンリーを、 大学野球部のマッチョ捕手シュウォーツが見い出すところから始まる。。 けど読みだした時期は 大リーグシーズン真っ只中、、 遊撃手といったらジーターのラストシーズン、ということしか頭に無い状況だったので、 (これはシーズン終わったら読もう)、、と中断。
その後は此処にも書いてきた通り、 ジーターを見送って、、燃え尽きになるかと思いきや、 ポストシーズン争いも見ているうちに嵌り込み、、 鉄壁守備と高校野球みたいな全員野球で頑張るロイヤルズと、 マッドバム・ポージー・パンダ・ペンス、、といった個性派一見ばらばらに見えてチーム力抜群のジャイアンツが面白くて、面白くて、、
マッドバムの最後の一球を、、ファウルフライでキャッチしたパンダさんがばったり大の字に倒れて、、 大興奮で抱き合う選手たちの中で ポージーが体力尽きたみたいに崩折れて、、 ペンスとモースが猛獣みたいに吠えまくって、、 そんなジャイアンツのすっかりファンになって10月は終わりました。
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そのせいか、、 (ポジションは違うものの)痩せっぽち遊撃手ヘンリーは、ポージーかパニック、 その子を鍛え上げる筋肉男シュウォーツは ハンター・ペンスにしか思えてしょうがない。。 彼らの大学時代、って感じで仮想映像化しながらあっという間に読み終えてしまいました。
向井さんも書いておられましたが、 野球小説の骨組みではあるものの、 物語のテーマは青春群像劇。
プロなんて夢のまた夢でしかない、でも野球しか頭にないヘンリーと、 分厚い筋肉の裏に孤独を抱えたシュウォーツ、 それから本の虫なのになぜか運動神経抜群、でもマイノリティゆえの苦悩も抱えたオーエン、 年齢は彼らと同世代ながら人より先に人生のさまざまな辛苦を経てしまった娘ペラ、、、
それぞれが、 それぞれのハードルを抱えつつ、 キャンパスでの日々を送り、 悩み、 苦しみ、 答えを探す、、そういう物語となっています。
だから 『守備の極意(原題 The Art of Fielding)』というタイトルは、 物語の本質と少し離れているような気もする。。
もちろん野球の面白さに魅せられている人が読むのが一番だと思うし、 私も今年だからこんなに面白く読めたのだと思うけれど、、 登場人物それぞれが味わう挫折や孤独、、 必死でそれと抗う姿が せつなくて愛おしくて、、
でも日本でなら一体誰にこの本をお薦めできるんだろう、、って考えてしまった。。 高校球児の一生懸命さとも違うし、 かつて高校・大学野球に青春を賭けたOBが過去を想うのとも違う、、 ましてや入学式や就職説明会に親付きで参加するような日本の大学生とアメリカの大学生じゃ 根本的に大学生活に対する考え方が全然違う、、、 じゃ誰?? よくわからない。。 ただ、 米アマゾンにはレヴューが千件以上も寄せられているんだから、 それだけ向うで読まれたのは確か。 評価はすごく割れてるけど。
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解説に作者の言葉が載っている。 野球の魅力は? の問いに 「野球はチームゲームであり、 チームはある種のファミリーでありながらも、 フィールドの上では選手はみな孤独であり、 どんなに仲間と支えあっても、 互いを完全には助けられないところ」 と答えている(下巻より)
これが全てを物語っていると思う。 野球についても、 友情についても。 結局、 自分だけが自分を乗り越えていける、 それしか出来ない。
その想いに共感できる人なら、 きっとこの物語、 楽しめると思います。
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これを書いている間、、 イチローさんの元同僚 ラウル・イバニェスがレイズの監督候補あるいはヤンキースの打撃コーチへ、、 というニュースが入ってきた。 今年、 ロイヤルズの代打でイバニェスを見た時、 すっごく嬉しかった。 マリナーズ時代からお気に入りだったから。。
プロの野球界も厳しい世界。 ジーターは華々しく去って行ったけれど、 そうでない人も(そうでない人の方が)いっぱいいる。 でも人生はみんな続いて行くんだし、 イバニェスがまだずっと頑張っててくれたのが観れて、 そして来期も野球の世界にいるんだなぁ、、と思えて、 なんか嬉しくなった。
そんなこんな、の立冬。。。 わたしもがんばるぞ。