星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

思い知らされる、という読書体験:『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著

2020-08-12 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著 久山葉子訳 創元推理文庫 2017年


ん~~ 凄い読書体験でした。

もっと誰かに読んでもらいたい。 この気持ちと同じものをもっと誰かにも味わってもらいたい、と 本当に思わせてくれる小説でした。

まず 映像ではあらわせない 、 活字をたどって行くことでしか成立しない物語であること。 他の表現では再現できないミステリー小説として成功しているのが大きな価値です。

だから、本当は何も明かしたくないの。
書評とか、種明かしになるようなものは決して読まずに、この物語を味わって欲しいです。 解説も最初にはぜったいに読まないで、、。

 ***

登場人物は、 ニューヨークに住む舞台美術家の女性と、 ジャーナリストの夫。 夫はかつて優れた取材記事を書き、 ピューリッツァー賞の候補にも選ばれた事がある。

彼女はたった今、 自分の妊娠を知ったばかりだった。 でも、 ジャーナリストの夫は取材のためにパリに旅立ったきり、、 最後に電話が来てから十日が過ぎていた。。 

、、ジェットコースターのような波乱や、 わくわくどきどきが前半はないかも知れないけれど、 どうかどうか、 投げ出さずに 丹念に物語を読み進めてください。
三分の二ほど読んだところで、 ある事実が読み手に突き付けられます。 それは作者から貴方自身に突き付けられる鋭いメス、、

物語の真相であると同時に、 貴方が常日頃感じていることの真実、、 あるいは、 貴方の想像力の歪み、 、  自分自身が気づかないままだった想いを まざまざと突き付けられ、 思い知らされることになるのです。

ごめんなさい! と心で謝らずにはいられませんでした。 誰に対して? それは登場人物かもしれないし、 作者さんかもしれないし、 もっと広い対象かも。。

そして、 参りました! と思いました。 この物語を書いた作者さんに対して。。

もうひとつ、、 泣きました。
これも 誰のために と単純には言えないけれど、、 夫パトリックを探す アリーナの不安な気持ちもよく描かれているし、 彼が消えてしまったという状況になってから後の アリーナの心につぎつぎに浮かんでくる幸せのかけらのこと、、 二人の出会いからこれまでの日々の幾つもの思い出のこと、、。 
だんだんと切迫してくる物語のなかで ひとつひとつの思い出がとても大切なものに思えてくる。。

さきほど、、 丹念に物語を読んでいって欲しいと書いた理由には、、 アリーナとパトリックのちいさな思い出のひとつひとつ、 彼らの暮らしや会話の描写、、 住んでいるNYの記述、、 さらに言えば 作者トーヴェ・アルステルダールはスウェーデンの作家だけれど 舞台にアメリカNYを選んだ事、 そこからパリへ、 ヨーロッパへと物語が拡がっていくこと、、
、、それら全部に意味があって、 それら全部のピースが、 物語の残り4分の1くらいで 見事に合わさっていくからなのです。 その驚き。。

この作家さんの新たな翻訳作品が出たら、 またぜひ読んでみたい。

 ***

あ、そうだ、、 蛇足ながら 表紙のことを指摘させて下さい。 残念ながら この表紙のイラストはあまり内容に合っていない感じがします。 「女たち」は確かに出てくるけれど、 この淡い色調のイラストのイメージではない気がする、、 だから この表紙のイメージと、 背表紙に書かれた紹介文⤵

 「あなた、父親になるのよ──」それを伝えたくて、わたしは単身ニューヨークからパリへ飛んだ・・・

という文章からイメージを持つと ちょっと想像と違うことになるかもしれません。 

もっとシリアスな物語だけれど、、


でも 愛の物語です。 


 ***

今年は、、 いつもと違う夏。。 4月の緊急事態宣言以降、 わが家もテレワーク中心となり、 家族の日常、 日々の生活風景が明らかに変わりました。 

良い事のほうが 今のところ多いと思っているけれど、、 その反面、 ブログを書く時間がなかなか取れなくて、、 読書記もなかなか追いついていかないけれど、、


世界の物語をすこしずつ読み、、 現実の世界の出来事にも想いをはせ、、


暑い日々を乗り越えています。。



よい読書を。