昨12月に パトリック・モディアノさんの著書を 別々のかたの翻訳でいくつかまとめて読んでみようか… と書いてその後…
この新年にかけて さらに2冊、 読みました。
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『八月の日曜日』 堀江敏幸・訳 水声社 2003年
『暗いブティック通り』 平岡篤頼・訳 白水社 2005年
パトリック・モディアノさんの追憶の物語、、 記憶をたどる物語、、 それはどの作品にも共通するもので、 それぞれの作品について感想を細かく書く必要は無いように思います。
私たちは読むあいだ 失われた過去の時間へ共にさかのぼりながら、 彼らにいったい何が起きたのか、 彼らと彼らをめぐる人々はいったい何者か、 彼は(彼女は)どこへ消えたのか、、 甘美な眩暈を覚えつつページをめくり、 同じ胸の痛みを味わい、、 そうして 読み終えた時には 長い夢から目覚めたばかりのように放心して、、 結局 謎は謎のまま 私たちは置き去りにされたことに気づくのです。。 狡い作家さんですね… 笑
語り手はつねに追跡者であると同時に 記憶のなかの彼らは つねに逃亡者でもある。。 何から…? 誰から…?
『八月の日曜日』の主人公ジャンは恋人のシルヴィアを連れて逃げてきた。 ふたりで暮らせる 安らぎの地を求めて。。 彼女が胸にさげている「南十字星」という名の大きなダイアモンドとともに。
彼らが誰で、 何故、 どこから、 どうして、、 何処へ、、 なにもわからないまま読み進めるのだけれど、 彼女が肌身離さない「南十字星」の名を持つダイアモンドというだけで どこか不穏な匂いがする。。
物語の舞台は南仏ニースの海岸。 地中海の陽光にあふれ、 街はエトランジェで賑わい、 つねに非日常の喧騒に包まれている、、 にもかかわらず、 思い出のなかの彼らはまるでフィルム・ノワールの世界にいるみたいな影につつまれている。。 眩し過ぎる海をフィルムに撮った時みたいなモノクロームの世界に。。
甘美でミステリアスな 美しい物語でした。 「南十字星」と、 物語の舞台についての 訳者・堀江敏幸さんの解説がたいへん参考になりました。
***
『八月の日曜日』のなかで 何度となく登場するのが、 ニースの海岸をめぐる「プロムナード・デ・ザングレ」という通り。 英国人の散歩道、 という意味なのだそうです。
青い地中海をのぞむ 椰子の並木、、 通りを行く者はみなエトランジェ。 雑踏のなかにまぎれていこうとする逃亡者、、 雑踏のなかに目を凝らす追跡者、、
そのような、、 運命の交錯する場所でもある 「プロムナード・デ・ザングレ」の描写を読みながら、、 記憶のどこかが何かを呼び覚ましていました、、 そういえば…
、、 このブログにも何度か ルイザ・メイ・オルコットがヨーロッパ旅行をしたことについて触れましたが、、 オルコットもこの《イギリス人の散歩道》についてなにか書いていなかった…?
ニースは気候がよくて海が美しくてとても快適。 …(略)…
わたしは毎日湾岸沿いの広くて曲がりくねったプロムナードを馬車で楽しくドライブした。片側にはホテルやペンショ.ンが建ち並び、反対側には花の咲きみだれる遊歩道があって、派手な馬車や人の姿がいつも見られる。興味をそそられるすてきな品物のあふれる店、絵のような城、丘に聳え立つ塔や城壁、三日月形の湾の先端の灯台、海に浮かぶ小舟やわが国の艦隊、庭園、オリーブやオレンジの木々、この国では珍しくないけれど、ちょっと変わったサボテンやヤシ、修道士、司祭、兵士、農民など。
(『ルイザ・メイ・オールコットの日記』 1865年11月の日記より)
パトリック・モディアノの物語より120年前の「プロムナード・デ・ザングレ」の風景。
そして、 ルイザもまた、 このニースを舞台に 逃亡者と追跡者の物語を書いていたのでした。
オールコットはこのヨーロッパの旅から帰国後、 家計を助けるために物語をせっせと書いては新聞社や出版社へ送ります。 そのなかには『若草物語』のような少女小説とは似ても似つかない、 (でも本当はルイザ自身はとっても書きたかった) スリルとサスペンスの冒険ロマンス小説もありました。
邦訳では 『愛の果ての物語』という題がついていますが、 原題は A Long Fatal Love Chase
恋愛小説でありながら 今で言うならモラハラ夫から逃れて逃走と追跡のピカレスクロマン。。 捕まっては閉じこめられ、 また逃亡して、 舞台も英国、 フランス、 船でさかのぼってドイツまで、、 (だったかな?) 読んだのがかなり昔だったので忘れてしまいましたが、 今 オルコットの日記のニースの部分を抜き出して気づきました。 まさにこのプロムナードを馬車で疾走して追手(夫)から逃れるという場面もあったっけ…(記憶違いでなければ…)
「聳え立つ塔」も「城壁」も、 「修道士」も「司祭」も、、 そういえば重要な役どころで登場していました。。 ルイザがヨーロッパの旅で見たもの、体験したこと、、 それをいっぱいに盛り込んで、 思い切り楽しんで書いたのでしょうね、、 でもこの作品は《刺激が強すぎる》としてお蔵入りになってしまい、 図書館に埋蔵された原稿をもとに出版されたのは 1995年になってからでした。。
パトリック・モディアノさんの記憶の物語から ルイザ・メイ・オールコットの Love Chase の物語へ、、 連想が飛躍してしまいましたが、、 ヨーロッパの古今の風景を思い浮かべながら 『愛の果ての物語』をまたいつか読み返してみたいと思います。
モディアノ作品の読書はこれでひとまず区切り。。 せつない記憶に翻弄されるのはそろそろにして… (笑) …
いまは カミュを読んでいます。
***
このところ、、 夜明けの空に 美しい明星の輝きが…
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昨日の朝6時ごろの風景
大寒も過ぎ、 夜明けが少しずつ早くなっていきます。
春も少しずつ近づいてくるのですね。
よい週末を。
この新年にかけて さらに2冊、 読みました。
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『八月の日曜日』 堀江敏幸・訳 水声社 2003年
『暗いブティック通り』 平岡篤頼・訳 白水社 2005年
パトリック・モディアノさんの追憶の物語、、 記憶をたどる物語、、 それはどの作品にも共通するもので、 それぞれの作品について感想を細かく書く必要は無いように思います。
私たちは読むあいだ 失われた過去の時間へ共にさかのぼりながら、 彼らにいったい何が起きたのか、 彼らと彼らをめぐる人々はいったい何者か、 彼は(彼女は)どこへ消えたのか、、 甘美な眩暈を覚えつつページをめくり、 同じ胸の痛みを味わい、、 そうして 読み終えた時には 長い夢から目覚めたばかりのように放心して、、 結局 謎は謎のまま 私たちは置き去りにされたことに気づくのです。。 狡い作家さんですね… 笑
語り手はつねに追跡者であると同時に 記憶のなかの彼らは つねに逃亡者でもある。。 何から…? 誰から…?
『八月の日曜日』の主人公ジャンは恋人のシルヴィアを連れて逃げてきた。 ふたりで暮らせる 安らぎの地を求めて。。 彼女が胸にさげている「南十字星」という名の大きなダイアモンドとともに。
彼らが誰で、 何故、 どこから、 どうして、、 何処へ、、 なにもわからないまま読み進めるのだけれど、 彼女が肌身離さない「南十字星」の名を持つダイアモンドというだけで どこか不穏な匂いがする。。
物語の舞台は南仏ニースの海岸。 地中海の陽光にあふれ、 街はエトランジェで賑わい、 つねに非日常の喧騒に包まれている、、 にもかかわらず、 思い出のなかの彼らはまるでフィルム・ノワールの世界にいるみたいな影につつまれている。。 眩し過ぎる海をフィルムに撮った時みたいなモノクロームの世界に。。
甘美でミステリアスな 美しい物語でした。 「南十字星」と、 物語の舞台についての 訳者・堀江敏幸さんの解説がたいへん参考になりました。
***
『八月の日曜日』のなかで 何度となく登場するのが、 ニースの海岸をめぐる「プロムナード・デ・ザングレ」という通り。 英国人の散歩道、 という意味なのだそうです。
青い地中海をのぞむ 椰子の並木、、 通りを行く者はみなエトランジェ。 雑踏のなかにまぎれていこうとする逃亡者、、 雑踏のなかに目を凝らす追跡者、、
そのような、、 運命の交錯する場所でもある 「プロムナード・デ・ザングレ」の描写を読みながら、、 記憶のどこかが何かを呼び覚ましていました、、 そういえば…
、、 このブログにも何度か ルイザ・メイ・オルコットがヨーロッパ旅行をしたことについて触れましたが、、 オルコットもこの《イギリス人の散歩道》についてなにか書いていなかった…?
ニースは気候がよくて海が美しくてとても快適。 …(略)…
わたしは毎日湾岸沿いの広くて曲がりくねったプロムナードを馬車で楽しくドライブした。片側にはホテルやペンショ.ンが建ち並び、反対側には花の咲きみだれる遊歩道があって、派手な馬車や人の姿がいつも見られる。興味をそそられるすてきな品物のあふれる店、絵のような城、丘に聳え立つ塔や城壁、三日月形の湾の先端の灯台、海に浮かぶ小舟やわが国の艦隊、庭園、オリーブやオレンジの木々、この国では珍しくないけれど、ちょっと変わったサボテンやヤシ、修道士、司祭、兵士、農民など。
(『ルイザ・メイ・オールコットの日記』 1865年11月の日記より)
パトリック・モディアノの物語より120年前の「プロムナード・デ・ザングレ」の風景。
そして、 ルイザもまた、 このニースを舞台に 逃亡者と追跡者の物語を書いていたのでした。
オールコットはこのヨーロッパの旅から帰国後、 家計を助けるために物語をせっせと書いては新聞社や出版社へ送ります。 そのなかには『若草物語』のような少女小説とは似ても似つかない、 (でも本当はルイザ自身はとっても書きたかった) スリルとサスペンスの冒険ロマンス小説もありました。
邦訳では 『愛の果ての物語』という題がついていますが、 原題は A Long Fatal Love Chase
恋愛小説でありながら 今で言うならモラハラ夫から逃れて逃走と追跡のピカレスクロマン。。 捕まっては閉じこめられ、 また逃亡して、 舞台も英国、 フランス、 船でさかのぼってドイツまで、、 (だったかな?) 読んだのがかなり昔だったので忘れてしまいましたが、 今 オルコットの日記のニースの部分を抜き出して気づきました。 まさにこのプロムナードを馬車で疾走して追手(夫)から逃れるという場面もあったっけ…(記憶違いでなければ…)
「聳え立つ塔」も「城壁」も、 「修道士」も「司祭」も、、 そういえば重要な役どころで登場していました。。 ルイザがヨーロッパの旅で見たもの、体験したこと、、 それをいっぱいに盛り込んで、 思い切り楽しんで書いたのでしょうね、、 でもこの作品は《刺激が強すぎる》としてお蔵入りになってしまい、 図書館に埋蔵された原稿をもとに出版されたのは 1995年になってからでした。。
パトリック・モディアノさんの記憶の物語から ルイザ・メイ・オールコットの Love Chase の物語へ、、 連想が飛躍してしまいましたが、、 ヨーロッパの古今の風景を思い浮かべながら 『愛の果ての物語』をまたいつか読み返してみたいと思います。
モディアノ作品の読書はこれでひとまず区切り。。 せつない記憶に翻弄されるのはそろそろにして… (笑) …
いまは カミュを読んでいます。
***
このところ、、 夜明けの空に 美しい明星の輝きが…
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昨日の朝6時ごろの風景
大寒も過ぎ、 夜明けが少しずつ早くなっていきます。
春も少しずつ近づいてくるのですね。
よい週末を。