星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

心を揺らすもの、、

2022-08-18 | 文学にまつわるあれこれ(妖精の島)
お盆が過ぎて、 夕暮れの風がすこしだけ涼しくなりましたね。

お盆休みの間、、 わたしはまた病院とお役所に出向いていました(笑)、、 いつまでかかるの? とお友だちにも呆れられていますが、 一番呆れているのは私デス。。 もうそろそろ終わりに… したいよ~

 ***

ゆっくり小説でも読みたい夏休みなのですが、 落ち着いていられないのと これ以上 眉間に皴が増えないように、 笑顔になれる本を読んでいました。


『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』

以前 『さようなら、いままで魚をありがとう』のところで書きました、《銀河ヒッチハイクガイドシリーズ》の著者、ダグラス・アダムスさんが書いたとっても楽しい探偵小説(?)です。 探偵小説? なのかな…笑 、、探偵事務所は出てきます。

読書記はまたにして… 

出版が87年なので、 そのころに世間をにぎわせ始めたマッキントッシュや、 PC黎明期のソフトウェアの数々や、 自然界のフラクタル理論とか、 当時を思い出して懐かしかったです。 

今でこそ もう私には最新デジタル機器にはついていけなくなってますけど、 パソコンとか ゲーム機とか、 その進化の過程を最初からずっと見て来れたのは面白い経験だったなと思います。 3D画像を動かす、というだけで ものすごくワクワクしていましたものね。

音楽の世界でも、 子供の頃にはレコード、 そしてカセット、 CD、 配信へと、 成長と共にずーっと一緒に体験して来れた世代はいっぱいいろいろな発見をしてこれたと思うし、、 良さも、不便さも。。

この本は、 そういう《時》の流れもひとつのテーマになってます。 (数十年どころか それこそ地球生命の誕生の歴史にまでさかのぼる? かのような…笑) 基本、コメディなんですけどね。。

でも 『さようなら、いままで魚をありがとう』の物語もそうだったけれど、 どこかピュアでロマンチックな部分がちゃんとあって、、

こんな素敵な一文が、、

 人が感情を揺さぶられるもの――花やギリシアの壺の形状、幼子の成長、顔をなぶって吹く風、雲の動きとその形、水面に躍る光、そよ風に揺れる水仙、愛する人の頭の動き、それに連れて動く髪、音楽の最後の和音が消えていく、その減衰によって記述される曲線—― 


、、終わりのところ… 音楽の最後の和音が消えていく、、 という部分。 
音が鳴り響くときの美しさでなく 音が消えていくところに感情をゆさぶられる、 と書いてくれたことがとても嬉しかったです。 今年の初めあたりから何度か、 《音の着地点》ということを此処に書いてきて、 自分でも楽器の音色が空気を震わせて、、 静かに消えていく、、 そして 音が消えたあとに耳に(胸に)その音の名残りというか 余韻が ふわっ響いてそれから消える、、 そういう空気と心の動きのなかでしかとらえられない音の最後の《音》、、

《音の着地点》と書いてきましたけど、 この引用にあるように 点ではなくて 《曲線》と言った方がいいかもしれないですね。。 


この物語の主人公はコンピューターソフトウェアのプログラマーの青年。 いつも頭のなかでは 自然界のあらゆる現象を数字や記号に変換している人。。 でも、 彼の恋人はチェロを弾く女性なんです。  そこがポイントなんだと思う。。 

チェロを弾く人の手の動きや腕の角度なども とっても美しいと思うし、、 チェロという楽器の形状や、 表面の木材の長い年月を経た感じ、、 もちろん木を使った楽器はなんでもそうなんですけど とりわけチェロとか コントラバスなどの大きな木の楽器はその木部の美しさにじっと見入ってしまいます。。 とっても古い木なんだろうな、、と。 樹木の歴史、 言い換えれば地球環境の歴史そのものが空気をふるわせて鳴っている、 というようなそんな気さえします。 

地球の歴史のなかで生まれてきた樹木と、 地球という環境がだいじに保っているこの空気、、 そのなかでしか《音楽》は響かないんですものね。。 

このユニークな探偵小説は《音楽》もテーマのひとつです。 音楽、 そして美、 地球、 歴史、 時間、、 

そして何より素敵だったのは、、 なんと この物語を導いているのは、 イギリスのロマン派詩人 サミュエル・テイラー・コールリッジ!! このことは読み始めるまで知りませんでした。 漱石先生や英文学、そしてロマン派文学をやるには欠かせない人 コールリッジ。 その詩が下敷きになっているんなんて驚きでした。 (コールリッジを知らなくても楽しく読めると思います)


そのお話はまた… 


秋になったら 心ときめく読書、 ゆっくりしたいな~~ ☆……