星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

私の前にある時間…

2023-09-14 | …まつわる日もいろいろ
今年の夏はほんとうに長かったですね。 
ことしの… と言うものの もしかしたら来年も、 これからずっと、、 一年の半分近くが夏の暑さ、ということになっていくのかと心配にもなります。

そんな 身動きも苦しいような猛暑の日々に読んでいた長い長い小説の一節・・・

 ひと月を満ち足りた時間、自分の時間として味わえるかどうかは、なににかかっているのだろう、と。ただ単に我々の傍らを過ぎ去っていった時間、ただ苦痛なだけの時間、指のあいだから零れ落ちてしまった時間は、失われた、味わうことのできなかった時間のように思われて、それが過ぎ去ったことではなく、その時間をどう使うこともできなかったことが哀しく思われる。・・・ 
   (『リスボンへの夜行列車』 パスカル・メルシエ著 浅井晶子訳 より)


この本のことについてはまた書くかもしれないし、もしかしたら書かないかも…。 57歳の古典文献学の教師が、あることをきっかけに突然 授業の教室から立ち去り 暮らす街からも立ち去り、 すべてを置き去りにしてリスボンへ旅立つ。。 ある本の中の男の人生を追い求め、 自分のこれまでの人生とこれからの人生を見つめ直す哲学的思索の書。

上下段組みのひたすら長い本でしたが、 映画ではジェレミー・アイアンズ主演で『リスボンに誘われて』という作品になっています(見てませんが、いかにもジェレミー・アイアンズが似合いそう)。 こんな長い本をどうやったら2時間の映画にできるのだろう…と不思議なほどですが 映画の紹介を見るとうまくまとまっていそうです。

主人公が読む本のなかの言葉、 人生に対する思索、 男が遺した手紙、といった引用がとてもとても長いので 読んでいくのは骨が折れましたが、 教師が突然すべてを投げ出して旅立っていく始まりや、 彼が行く先々で出会う人とのエピソードはとても面白いものでした。

肝心の、 人生に対する思索、、

例えば上にあげた引用部分、 自分は生きてきた時間を無駄にしてしまったのではないか、 自分の時間を本当に《生きた》といえるのか、 そういう懐疑は誰もが抱くと思えるし理解できる。。 この教師の男も過去を振り返り、 あのとき別の選択をしていたら自分の人生は… と振り返ったりもする。。

でも… 自分の人生の時間の価値って なににあるのだろう… 

沢山の事をして充実していたか? なにか結果を残したか? 楽しかったか? 健康だったか? 人に認められたか? 、、そういうものが価値のあった時間…?
では、、 なにもできず「指のあいだから零れ落ちてしまった時間」は自分の人生のなかの無駄だった時間? 失われた時間…?

そのことが私にはよく判らない。。

 ***

じぶんの人生のなかの「ただ苦痛なだけの時間」、、 ひたすらベッドに寝て時間をやり過ごすしか無かった病の時間…(人生で換算したらそれこそ何年分、という単位になる、私の場合) その時間は今の自分にとって 何もできなかった無駄な時間だったか…?

自分の人生を《生きた》か否か、 という意味で言えば、、 ベッドの上で空だけを見つめて過ごしたひと月でさえ、 肉体のなかではこれ以上ないほどのエネルギーを使って命がけで《生きた》時間だった。 

あのとき別の生き方をしていたら… と人生を振り返ることも 多くの人に勿論あるだろうと思う。。 けど、、 選択の向こうに死が結びついているような病をもって生きていたら、 その選択肢はとても少ないものになる。 「指のあいだから零れ落ちる時間」になろうとも その選択しか道がないこともある。。

そんなだから、、 ときにこういう人生を哲学的に見つめ直す本に出会うと、 (あぁ私にはちょっと当て嵌まらないのだなぁ…)という感想になってしまうこともあるのです。

 ***

だから… というのでもないけれど、 過去はそれが客観的に価値があろうがなかろうが、 自分には必要な過去なのだし、 それをふり返る時間よりも これからに目を向ける時間のほうが好きだし、 私の前にこれからくる時間のために命を費やしたいと思ってる。。 これからを、 明日を、 今日を、 それが長かろうが 短かろうが。。 前へ生きる私を支えてくれる本や芸術や音楽や知識に出会いたいと思ってる…

ただねぇ、、 本は読んでみないと自分にとって大切かどうかわからないのが困るのよ。。
それと、、 こんなに暑くて長い夏の時間はもう欲しくな~い。。 いろんな災害、 避けられるはずの被害、 終わらせられるはずの争い、、とか。 そんな出来事がつづくと、 どうしても毎日が近視眼的になってしまう。 心がせまくなってしまう。。 きっと私だけじゃないはず…




これはおとといの夜明けのみごとな鰯雲。 秋のおとずれ。 

秋の時間、 たいせつにしたい。。 いっぱいいっぱい味わいたい。


近視眼的に凝り固まってしまいそうな 昨今のこころを解き放つために、、
あしたは古代へ旅してきます。。


バテるな自分。。



良いシルバーウィークになりますよう…