「オーケー! 出発するわ」
・・・ 略
わたしは夫に、これから大急ぎで飛行服と地図を取りにライに帰らなければならないからと話し、午後二時にジョージ・ワシントン橋の、ニューヨーク市側のたもとで落ち合うことにきめた。 ・・・略・・・
交通巡査もなんのその、わたしはライまで二五マイルの道を全速力でぶっ飛ばして家へもどった。持っていく物をまとめるには五分間で十分だったが、その後ほんの二、三分間だけ、思わず足を止めて、わたしが日ごろ大好きな、美しい眺めをもう一度つくづくと見なおした。寝室の窓ぎわや、窓の下に、ドッグウッド(ハナミズキ)の茂みがあって、その花がいまを盛りと咲き誇り、えも言われぬ白やピンクの花群のそこここに春の日射しが輝いている。・・・
アメリア・イヤハートの手記の中でとても好きな部分を引用させていただきました。 これは〈ラスト・フライト〉となる赤道上世界一周飛行に出発する場面ではなくて、 それ以前に単独大西洋横断飛行を成功させたことを振り返っている部分ですが、、 天候が回復するという報せに即座に出発を決め、 その慌ただしいさなかに、自宅へとび帰り、自宅の一番好きな光景を眼におさめようとしている場面がとても愛おしく感じられました。
そして、 アメリア・イヤハートという女性には、くっきりと可憐な白やピンクの花が咲くハナミズキがとても似合うとも思いました。 風にひらひらと翻って咲く様子はまるで小さなプロペラのようだし…
『ラスト・フライト』アメリア・イヤハート著 松田 銑・訳 作品社 1993年
アメリア・イアハートという女性飛行家のことを知った経緯は、 この春 エルザ・トリオレの小説『ルナ=パーク』の読書記を載せたときに触れました(>>)
アメリアの伝記や、 失踪の謎について、 そういう本はいろいろ出ているようですが、 この本はアメリア自身が書いた飛行記録と アメリアが飛行士としてのこれまでを自分で振り返っている文章で構成されているので、 彼女自身の言葉を読むことが出来てとても良かったです。
遭難したあと、飛行機さえ見つからなかった彼女の飛行記録がなぜ残っているのだろう… と、 この本を知った時に不思議に思ったのですが、 それはこの本のなかにも書かれている通り、 アメリアは飛行中にも機体からアンテナ線を外に垂らして、それを地上のラジオ局や 洋上の船に電波を拾ってもらって逐一飛行の経過を知らせていたからなのでした。
そして、 給油などで地上に降りた時には、 追加の記述をまとめて追々送り返していたのでした。 だから、赤道上世界一周飛行のほぼ最終段階、 ハウランド島へ飛び立つ〈ラスト・フライト〉の前日の7月1日の記録までが載っています。 この本は、アメリアのその飛行記録を のちに夫のジョージ・パットナムがまとめて出版したものです。
さきほど書いた飛行機からアンテナを垂らして通信する様子とか、 飛行機本体のタンクに入りきらない予備の燃料を空を飛びながらどうやって給油するのかとか、、 そういう技術的な内容もとても興味深かったです。
飛行機の事をなんにも知らない私だけど、 アメリアの手記は本当にわかりやすく、 空から見る風景のこと、 知らない場所へ着陸した時の現地のひとびとの面白い反応、 女性飛行家に向けられる当時の注目や、彼女自身が想い描いている目標、、 包み隠さず ユーモアにあふれて、 時には反発も込めて、、 じつにアメリアらしいと思える生き生きとした手記でした。 なによりその前向きな精神、 不安や怒りもユーモアに変えられるそこにこそアメリアという人の本質があるように思えました。
アメリアが眺めた自宅のハナミズキ。 花水木(dog wood)の英語の花言葉を検索すると、 厳しい気象に耐えることから、 耐久性、とか永続性という意味や、 逆境に耐えて続く愛、 という意味があるそうです。 そんなところもやっぱりアメリアに似合っている気がします。。
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だけど、、 この本を読んでいて思った事・・・
アメリアの赤道上世界一周飛行への挑戦は、 計画通りにすべてが進んだのではなかったのでした。 大きな計画変更を余儀なくされていたことがいくつか・・・ 出発前の突然の機体の事故、、 それによる出発の延期、、 そのあいだにも世界の気候・気象条件は移り変わってしまう、、 そのために計画を曲げて当初の西回りコースから逆回りへと変更。。
私は飛行機や気象のことなど何もわからないけれど、 でも そういった幾つもの変更が良い方向へ作用したとは思えない。。 手記のなかでアメリアは持ち前の前向きな思考で解決策を手にしていくけれども、 すべての条件が最初の計画のままだったら・・・ と思わざるを得ない。
そして、、 ほんとに世界一周飛行がもう達成目前だったラエの地点で、 アメリアもその他のたぶんすべての関係者が、 7月4日の独立記念日にアメリアがカリフォルニアへ到着することを強く望んでいた、、 そのプレッシャーは無かったか…?
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アメリアは優秀な人だと思うし、 どんな時にも どんな困難が生じても、 その時点での最善を尽くしたことは間違いないと思う。。 だけど本を読むと、 その過程にはやはり〈兆候〉というものがあったように思う。 いろいろな変更とか、 あらかじめ決定されている期限とか、 予定とか、、
、、そして これをどうとらえるかは人それぞれだし、 私の解釈に過ぎない部分もあるけれども、、 〈報せ〉というものもあったんだ…と思う。。 私は神さまがいるとか、 予知能力とか、 何も確かな事はわからないと思っているけれど、 説明できない〈不思議な報せ〉も、、 あったんだな… と思ってしまう、、 それに気づくことが出来るのは たいがいは物事が起こってしまってからなのだけれど…
、、当初の計画が すべて計画通りにすすんでいたならば… やっぱりそう思ってしまうし 計画通りに達成できたアメリアであって欲しかった…
どんな冒険でも、 どんな挑戦でも、、
なにか予期できない困難に直面した時にどう行動するか。。 前向きなチャレンジャーであるべきか、、 石橋を叩いて しかも渡らないという決断ができるものなのか、、 歴史はチャレンジした者だけを崇めるものだし…
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ハナミズキは 葉が芽生える前に、先に花だけが咲く
アメリアはやはりハナミズキのようなひとかと思う…
じぶんはどんな花なんだろう…
どんな花になりたいんだろう…
もうすぐ 雨の季節ですね…