星のひとかけ

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最良の芸術だけが…

2024-06-27 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
『生き延びるために芸術は必要か』森村泰昌・著

先週、 この本のことを少し書き(>>)、 別のもうひとつの本を読んでから続きを書くと記しました。 パンデミックについての本のことだったのですが、 自分が考えていた内容とは余り関係しなかったので、 森村さんの本のことだけ続きを書きます。

森村さんの本を読み終えて 今、、 この3年余り コロナ禍のあいだに考え続けていたもやもやの事は、 そろそろお終いにしてもいいかな… と思い始めています。

この本の目次は前回のほうにリンクを載せました。 森村さんのこの本のもとになっている 大学での講義、 その最も古いものが 第五話「コロナと芸術」2020年7月の大学のオンライン講義です。 そして、そのほかの章も コロナ期間中の講義だったり、 書きおろしだったり、 それらがまとめられ、 「あとがき」が書かれたのが今年2024年1月となっています。

おそらく、 森村さんもこのコロナ禍のあいだずっと もやもやされていたのでしょう。 パンデミックと芸術のあり方、 芸術の必要性、 芸術とはそもそも、、 この3年余りのお考えがこの本にまとめられたと思っても良いのでしょう。

読みながら 森村さんはとても正直な方だと思いました。 そして優しい方だな、と。 決して決めつけようとはしない、 芸術家としてのご自分のスタンスというもの(それらは文章のそこかしこにきちんと提示されつつ)、 その考えを押し付けようとはしない。 

特に私が興味深く感じたところは、 コロナ禍でいろんなイベントや展覧会が中止に追い込まれた時に、 芸術と鑑賞者(お客さま) について考える部分。。 森村さんがどうお考えになったかを此処で書くのはよしますが、 「お客様」についての部分はある意味 眼から鱗でした。

私も、 2020年の法隆寺展が中止になった時、 百済観音様は誰もいない国立博物館に会期中ずっと立っておられるのかしら…などと考えましたが、、 訪れる人がどれだけいようと誰ひとりいなくとも、 百済観音さまの価値が変わるわけもなく・・・

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この数年の、 私のもやもやの一部には 「不要不急」とされたものの存在価値と、 経済的価値とが、 並列で語られてきたことがあります。 コロナ禍で中止にされたイベントや展覧会やコンサートや映画館や、、 それらを止めてしまったことで 「文化が失われる」とまで叫んでいた声もありました。 「コロナによって失われた」「コロナの犠牲になった」等の声・・・ 犠牲になったのは 文化か、 経済か、、

もちろん経済的な損失の重さはわれわれ鑑賞者(お客)の立場でも理解はできます。 けれどもそれによって芸術(文化)が損なわれてしまうのか否かの責任も 鑑賞者が共に負うべきなのか、 そもそもコロナ禍でその存在が、その価値が、失われる芸術(文化)とは? 

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単なる一般人の私でも なかなか出口の見えないこの3年余りの生活の間、 世の中の経済、 医療、 「不要不急」と見なされたもの、 必要不可欠なもの、 家族の健康と仕事、、 それらのあいだで精一杯考えたり心を痛めたりしてました。

芸術に携わる当事者の森村さんが やはりこのコロナ禍の間、 どんなことを思って迷っておられたのか、、 それが読めたことが何より良かったと思っています。 結論が出たわけではないし、 何が正しい、正しくない、そう森村さんは言っておられるのではない、、 それでも。。

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昨日、、 思わぬところから 私に(私にとっての)答えにつながる言葉がみつかりました。 まったく別の意図で読んでいた本、、 カナダの移民について思い出して読み返していた本 マイケル・オンダーチェの『ライオンの皮をまとって』の中から


  最良の芸術だけが、 出来事の混沌とした乱雑さをまとめることができる。 最良のものだけが混沌を並べかえて、混沌とそれが持つだろう秩序の両方を示すことができるのだ。

 これは、小説中の登場人物のことばでもなく、 登場人物が考えたことでもなく、おそらくオンダーチェ自身の思いのあらわれている部分(訳者あとがきにあるが、このゴシック体の文は詩人アン・ウィルキンスンのノートからの引用らしい)で、 オンダーチェはつづく文章のなかでこう付け加えている、、 まるで自身が小説を書く意味を述べているかのように・・・

  (略)どんな小説も、最初の文はこうなるべきなのだ。「私を信じなさい。この本は時間がかかるが、ここには秩序がある。とてもぼんやりとだが、とても人間的な秩序が」 (略)


ここでいう「秩序」とは、道徳的な意味でも、社会規範的な意味でもないと私は思っています。 森村さんの本のタイトル「生き延びるために芸術は必要か」と問われた時に、私は「必要」と答えるしかない、、 なぜ? 必要だから。。 なぜ必要になるの? なぜ欲するの?

そう自問した時に このオンダーチェさんの言葉が響いたのです。 そう、 混沌のままでは苦しくて堪らないから。。 この世界の、人間の、自分の、、カオスに 一条の道すじを見つけたいから。。 

「最良の芸術だけが・・・混沌とそれが持つだろう秩序の両方を示すことができる」から。


オンダーチェさんの(アン・ウィルキンスンの)言う 「最良の芸術」、、 ただの「芸術」じゃない、、 なにが「最良」の証しなのか、、 どうやったら見極められるのか、、


、、よくわからない。。 でも、 ふたたびパンデミックがきて、 「不要不急」と叫ばれた時、、


自分をささえてくれるものは きっとそれなんだと思う。。