身も蓋もなく言ってしまえば、カウボーイというのは臨時雇いの季節労働者なのだね。なんかロマンチックなイメージがあったけれど、屈辱的な条件でも雇い主には逆らえない。
たとえばゴールド・ラッシュに沸くカリフォルニアに集まってきた一攫千金狙いたち相手の歩く食料として供給されたのがテキサス育ちの牛で、それを東西に伸びる鉄道の中継点まで運ぶ、というのがカウボーイ。つまり、バックにあるのは金欲で、アメリカ式の貪欲な資本主義は、カウボーイを搾取して生まれたと言えるかも(それから、鉄道を建設した中国人労働者)。
前半、雲がすこぶる印象的に陰影をもって捉えられている。空は青く、西部劇の空に近いが、追うのは牛ではなく羊というのが、どこかビンボくさい(羊で性欲処理するなんてこともあるものね)。
ゆっくりしたテンポで、アメリカのちょっとバカバカしいほどの広さ、空漠さというのが実感される。
日本だったら、山の中でももう少し鳥や虫が鳴いていると思うのだが、この山で出るのは羊を襲う猛獣どもで、寒さとともに人を徹底して獰猛にはねつける。ラストに出てくる“ブロークバック・マウンテン”が写真のそれ、というのは山という自然物そのものに愛着があるわけではないのだろう。
人間というのは、関係を作らなくてはいられない動物なのだな、と思った。
食べて寝て子孫を残してという生き物としての欲望以外の根本的な欲望で、性欲はその重要な要素だがすべてではない。
しかし、そうやって集まって社会ができると、その社会からはみでる欲望を認めなくなっていくジレンマ。
義理の息子を金持ちの義父がまるで無視しているあたり、金のない人間は人間扱いされていない感じ。
この金持ちそっくりの孫が、これまた驚くほど可愛くない、歯並びの悪いガキ。
これくらい食べ物がまずそうな映画も珍しい。豆ばっかり食べてる山の中といい、小型の電動ノコみたいな機械でバカでかいローストチキンを削っているあたり、「飲食男女」(「恋人たちの食卓」)のアン・リーの豪勢を極めた料理演出のポジに対するネガの如し。
登場人物全員がピックアップトラックを運転しているみたい。日本の自動車メーカーの盲点みたいになっている、大荷物をしょって歩く姿を自動車にしたみたいな車だ。
脚本のラリー・マクマートリーが原作を書いていた現代の西部劇「ラスト・ショー」のタッチと似ている。道具立ては西部劇でいて、気分はほとんど柳沢きみお。
西部劇をニューシネマ風にリアリズムで見直すというのとは違い、苛烈な世界をともかくも生き延びていくのになぜ西部劇という夢を見ずにいられなかったか、という切迫した衝動を掴んでいるよう。
(☆☆☆★★★)
ブロークバック・マウンテン - goo 映画
Amazon ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション
たとえばゴールド・ラッシュに沸くカリフォルニアに集まってきた一攫千金狙いたち相手の歩く食料として供給されたのがテキサス育ちの牛で、それを東西に伸びる鉄道の中継点まで運ぶ、というのがカウボーイ。つまり、バックにあるのは金欲で、アメリカ式の貪欲な資本主義は、カウボーイを搾取して生まれたと言えるかも(それから、鉄道を建設した中国人労働者)。
前半、雲がすこぶる印象的に陰影をもって捉えられている。空は青く、西部劇の空に近いが、追うのは牛ではなく羊というのが、どこかビンボくさい(羊で性欲処理するなんてこともあるものね)。
ゆっくりしたテンポで、アメリカのちょっとバカバカしいほどの広さ、空漠さというのが実感される。
日本だったら、山の中でももう少し鳥や虫が鳴いていると思うのだが、この山で出るのは羊を襲う猛獣どもで、寒さとともに人を徹底して獰猛にはねつける。ラストに出てくる“ブロークバック・マウンテン”が写真のそれ、というのは山という自然物そのものに愛着があるわけではないのだろう。
人間というのは、関係を作らなくてはいられない動物なのだな、と思った。
食べて寝て子孫を残してという生き物としての欲望以外の根本的な欲望で、性欲はその重要な要素だがすべてではない。
しかし、そうやって集まって社会ができると、その社会からはみでる欲望を認めなくなっていくジレンマ。
義理の息子を金持ちの義父がまるで無視しているあたり、金のない人間は人間扱いされていない感じ。
この金持ちそっくりの孫が、これまた驚くほど可愛くない、歯並びの悪いガキ。
これくらい食べ物がまずそうな映画も珍しい。豆ばっかり食べてる山の中といい、小型の電動ノコみたいな機械でバカでかいローストチキンを削っているあたり、「飲食男女」(「恋人たちの食卓」)のアン・リーの豪勢を極めた料理演出のポジに対するネガの如し。
登場人物全員がピックアップトラックを運転しているみたい。日本の自動車メーカーの盲点みたいになっている、大荷物をしょって歩く姿を自動車にしたみたいな車だ。
脚本のラリー・マクマートリーが原作を書いていた現代の西部劇「ラスト・ショー」のタッチと似ている。道具立ては西部劇でいて、気分はほとんど柳沢きみお。
西部劇をニューシネマ風にリアリズムで見直すというのとは違い、苛烈な世界をともかくも生き延びていくのになぜ西部劇という夢を見ずにいられなかったか、という切迫した衝動を掴んでいるよう。
(☆☆☆★★★)
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