原作は読んでいないが、香水を作る香料のベースが4×3+1=13種類、というところで、キリストと十二使徒にひっかけているな、と直観する。
主人公を処刑するのにわざわざ十字架を用意するあたりからも、ハズレではないだろう。
もっとも主人公がキリストそのものというのはもちろんありえない。ネタバレになるから詳しくは書けないが、「愛」、それも精神ではなく物質的・即物的なそれが核心になっていて、しかも主人公自身はそれに関われない、というあたりずいぶんひねっている。
もっぱら嗅覚によって捕らえられた世界というのは、もっぱら物質そのもの連なりとしてあるのだろう。カニバリズムとも通じるものがあるが、もっと広がりと流動性がある。
製作者で脚色にも参加しているベルント・アイヒンガーは「薔薇の名前」「ネバーエンディングストーリー」(「はてしない物語」)「ブルックリン最終出口」など、映画化不可能な原作を好んで映画化するという妙な嗜好のプロデューサーだが、嗅覚が最大のモチーフになっているストーリーとなると、明らかに不可能性のハードルは高い。
撮影や美術などのスタッフワークの見事さとは別に、全面的な成功にはなりえない。
監督は「ラン・ローラ・ラン」の人だが、あのヒロインは赤毛なのが印象的だったが、今回の被害者の女性たちも赤毛が目立つ。原作がそうなっているのか、監督の趣味か。
(☆☆☆★★)