prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「蒼き狼 地果て海尽きるまで」

2007年04月04日 | 映画
実は本当の父、あるいは息子ではないのではないか、と疑う男ならではの葛藤が繰り返される。権力争いによる骨肉の争いであると同時に、その反動で信じられぬものを信じようとするテムジンの衝動が武力以上に人を集めていった、という骨格は割としっかりしている。
父子・兄弟との争いを見ていると、なんだか角川春樹その人の姿が自然とだぶってくる。

テムジンが昔、略奪された母の前夫の部族の男(香川照之)を何度も執拗に刀を刺す場面で、思い出すことがあった。
笠原和夫「昭和の劇」で角川映画「天と地と」の脚本の依頼を受けた笠原がシノプシスを作って角川に説明すると、いいけど一つだけ納得できない、上杉謙信が若い頃父親が死んで、その屍に「貴様には負けない」と太刀をぬいてガーンと刺す、という場面をやっちゃいけないと言い出して、これに近いことは史実にあるのだしドラマに必要だからと笠原が説得しても、いやこういうことはやってはいけないのだと意固地になって、結局物別れになった、という。
父親殺しに接近しても、やり通すことはできないのだね。

大量の人馬を動員したスペクタクルは、比較的CGくささが薄くて助かる。ただ、いくさでの戦法の面白さというのがほとんどなくて、辛うじて馬を走らせたまま海老反りになって後方の敵に矢を射掛けるという曲射ちが目立つ程度。
(☆☆☆)