大学の映像科の教授をしている映画監督、というのは今や珍しくないが、実際に映画を監督していなくても監督なのかというのは、言い方悪いが当人にとってはいきそうでいけない一種のインポテンツ的な思いもあるのかもしれない。
シナリオを書くのにパソコンを使えないというのはともかく、ペラ(200字詰め原稿用紙)は使わないのかな。今でも売っていることは売っているはずだが。携帯もスマホではなくガラケーというあたり、相当なIT音痴という設定だろう。
吸っているタバコが缶入りのピースというのも、いつの時代の人と思わせる。
監督の高橋伴明自身が京都造形芸術大学の教授をつとめているわけで、別れた奥さん役が高橋恵子(この映画のプロデュースにも参加している)だったりするものだから当然自伝的に見られるわけだが、かなり自分を古い者に見せるように自己演出しているのではないか。第一コンスタントに撮ってきているのだから。
奥田瑛二に前にトーク番組でセックスシーンを演じているところでマイクをつけた棒を持っている若いスタッフが勃ってきて腰を引いていたりすると、「勝った」と内心思っていたとか言っていたけれど、ここでは勃たなくなる恐怖というのが結構出ている。
若い監督志望の教え子が自分の判断に固執して人の客観的な目を排除し、その幼児性を突かれて暴力をふるうというさらに幼児的な悪循環に陥るあたり、なんだかまことにありそうな話。しきりと主人公の助監督につきたがるのも他力本願的。
フィルムを増感処理しているようなアンバランスなざらっとした画調にしている。ちょっと「タクシードライバー」の後半のようにリアルなのと奇妙な幻想感が混ざっている。ただ合成を使ったセックスシーンはどうしても画面が軽くなる。
シナリオに書いている猥褻な妄想と現実とが交錯していくあたり、谷崎潤一郎ほど老いと性のなまなましい葛藤までいかず(だいたいまだまだ若すぎ)、もっと発酵した生臭さが出てほしいところ。
(☆☆☆★)
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