論理的で知的な仕事の筆頭という印象の科学者の世界にも厳然として性差別はあるのを知らせるNetflix製ドキュメンタリー。
ただ、予備知識として実例をいくつかは知っていた。
キュリー夫人が夫ピエールを交通事故で失い他の妻子のある男と関係している最中に二度目のノーベル賞を受賞したのだが、不倫を理由に受賞するかどうかもめたこと。
本来だったらジェームス・ワトソンとフランシス・クリックと一緒にDNAの二重らせん構造の解明者としてノーベル賞をとっていなければおかしかったロザリンド・フランクリンがワトソンの中傷で外されたこと。(このエピソードはニコール・キッドマン主演の芝居Photograph 51になっている)。
余談だがそのジェームス・ワトソンは女性差別・人種差別発言を繰り返してバイオ研究所所長の座を追われ、現在は中国・深圳の研究所の名誉顧問になっている。
ドイツ首相アンヘラ・メルケルは物理学者だったが、性差別からそちらの道を諦め、政治家を目指したこと、などなど。
ただこのドキュメンタリー自体はエピソード主義であるよりはかなり科学的・分析的な構成をとっていて、差別を大学当局に認めさせるにもデータをとって突きつけることで状況改善を勝ち取るのを山場にしている。
科学者ですら認識の歪みがある、というより、実は科学者が特に歪みが少ないわけではなく、科学の本質として歪みがあったら他者の検証を受けるから正されるというだけのように思われる。
しかし、現実社会での研究には研究費やポストの獲得といった生臭い要素が絡まらざるを得ず、実態としては他社会同様に歪みが放置されてきたといえるだろう。
たとえば日本のSTAP細胞騒動などドラマでもドキュメンタリーでもいいが作品にたらずいぶん興味深いものになると思う。取り扱い注意には違いないだろうが。