一応誘拐事件を扱っているのだが、誘拐されたスオミ=長澤まさみの安否を本気で案じる人が一人もいないというのはどんなものだろう。
それも集まったのは元夫たちでしょ。現夫が真っ先に気にすることはないなどと言い張り、元夫たちがぐずぐず言いながら引き下がるのがなんとも不自然で、何かあるなと思ったら案の定。こういうの、伏線回収っていうのですか。
三谷幸喜にそういうのを要求するのはヤボか知らないが、最初の方で「天国と地獄」ばりに警察?が変装して豪邸に入り込んで外から見えないようカーテンを閉めてみせたりするもので、ああいう本格的な誘拐劇のスリルとサスペンスは求めないにせよ、いかにもお芝居くさく、先行作品の意匠だけ借りましたという感じ。そういうものだと割り切って見るのならいざ知らず、いったん気になりだすと、どうもいけない。
初めから警察を絡ませないで作ると決めて、オープンリールの逆探知の機械にせよ活字を切り貼りする脅迫状にせよ、わざと古めかしい趣向にしてあるのだろう。
スオミというのはフィンランド人が自分たちのことを指す言葉らしいが(「ゴルゴ13」で読んだ覚えがある)、なんでそう言うのか、子供の時フィンランドで過ごしたからという理由づけ?があるらしく、ラストでもフィンランドの首都ヘルシンキがネオン文字で出たりするのだが、なぜなのかどうもよくわからない。
長澤まさみが元夫たちに応じていろいろな顔を見せるという趣向というより、文字通り同じ顔を見せるシーンが見せ場になっている。
一番面白いのは舞台、それからテレビで、映画となると映り過ぎてリアリティの隙間風が吹き込む。