アメリカ南部の奴隷農場の恐るべき実態を見せるという意味で貴重な映画。
奴隷農場というのは、ここでは奴隷の労働によって作物を収穫する農場というより、奴隷そのものを育てて売って収益を得る農場の意味が濃い。まったくの動物扱いで、「黒人には魂がない」とか農場主たちは平然と言い放つ、というよりそれが常識になっている。価値観というか常識が今の目で見るとまったく転倒した世界で、何だか見ていて頭がくらくらしてくるような感覚を覚える。
人種差別もひどいが、性差別もひどいもの。女には性欲がないと農場主はまじめに言う。セックスをもっぱら生殖のためだけのものとして扱い人間性と結びついた部分を切り捨てるキリスト教的禁欲主義のグロテスクさも背景にあると思える。
農場主がリューマチを治すには黒人の子供に毒を吸わせればいいといつも踏んでいるあたり、自分は進んだ人間のつもりとは裏腹の異様な迷信深さを見せる。進化論を今でもまじめに否定しているキリスト教原理主義につながるところだろう。
ペリー・キングの一見して黒人を人間扱いしているかに見える「進歩的」白人の自分が優位に立っているから「寛容」でいられるエゴイズムに対しても容赦ない。
プロデューサーがイタリア人のディノ・デ・ラウレンティスだからこういうアメリカの恥部を暴く映画も作れたのだろう。公開当時アメリカのマスコミにめちゃくちゃに叩かれたというのもわかる気がする。
マンディンゴ(身体強健で奴隷労働に適するとされる)の兄妹の間でもかまわず子供を作らせるのと、農場主の息子が迎える嫁が結婚前に兄と性的関係を持っていたというパラレルの構造を持っている。このあたりやや軽く触れただけの印象で、長大な原作ではどの程度描きこんでいるのか、興味あるところ。
ジェームズ・メースンがあまりに差別意識が身についていておかしいとは夢にも思わないといった役をよくまあやったと思う。
ケン・ノートンのすごい肉体美が見もの。
スーザン・ジョージの欲求不満むんむんという感じの若妻役は「わらの犬」からのつながりだろう。
「風と共に去りぬ」ではわからないが、太った黒人女が母親役を勤めているのが子供を売るときに情が移らないよう実の母親から子供を引き離すためであることがわかる。
余談だが「風…」では実際のアメリカ南部で撮られたカットはまったくない。すべてハリウッド近郊で撮られ、広壮な邸宅の外景などはマット・ペインティング(絵合成)だ。
この映画はルイジアナでロケされ(よくロケできたと思う)、その湿った空気を捉えたリチャード・H・クラインの撮影が見事。
DVD版ではいくらか暴力とセックス描写でカットされているみたい。
(☆☆☆★★)