これだけ頻繁に子供が出てくる「マクベス」というのは見たことがない。
三人の魔女の登場シーンでふつうは出てこない女の子が他にもう一人出てくるし、マクベス側の男の子が本来なら魔女のセリフをしゃべったりする。
ほんらいマクベス夫妻には子供がいない設定のはずなのだが、配役表にもちゃんとMacbeth's childとあってジャックとフランクのマディガン兄弟(双子か?)がキャスティングされている。
魔女といってもおどろおどろしい超現実的ないでたちはまったくしていなくて、普通の女性たちで顔に傷がついているだけといった扮装だ。
マクダフの妻子を火あぶりするシーンをはっきり画面に出すあたりで、ここでの魔女というのは権力者たちの争いに巻き添えをくって殺されたり迫害されている弱者たちの代理として造形されているのではないかと思えてきた。
ここでのマクベスは野望や権力欲といった内発的な衝動に突き動かされているというよりむしろ半ば内部と外部にわたるシステムに操られている人形がかって見える。前に同じマイケル・ファスベンダーが主演した「悪の法則」の役柄とちょっとだぶる感じすらする。
マリオン・コティヤールのマクベス夫人も冷血な野心家というよりあまりに死ななくていい人間、それも弱者がばたばた死んでいくのに精神が壊れていく感じで演じられている。涙を流すレディ・マクベスというのも珍しい気がする。
ちなみにマクベス役のファスベンダーは父親がドイツ人、母親がアイルランド人でアイルランド育ち。
フランス人であるコティヤールを英語劇に出演させて、フランス訛り(よくわからんけど)を特に直していないのはこの頃のヨーロッパで違う国の王族同士で婚姻を結んで和平を図っていたのに対応してという狙いらしい。
全体にシェークスピア劇にありがちな大仰に声を張った発声ではなく、ほとんどささやくような小さな声でセリフを交わす。
全体にシーンごとで完全に寒色と暖色に塗り分けて、特にクライマックスでのバーナムの森が動くしーんとラストカットで色彩効果を思い切り発揮している。
(☆☆☆★★)
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