フランシス・フォード・コッポラの妻のエレノア・コッポラの八十歳にして初の劇映画監督作(脚本・製作も兼ねる)。
まあおよそ危なげも気負いもなく、食と衣、自然や名跡などの美しいものを自然に集めて愛でるキルトのような一編。
ヒロインが撮って回る写真がかなり寄って断片化されているのが暗示的。
登場人物はほとんど二人、カンヌからパリに向かう間にあちこちに寄り道して(原題はParis can waitとHeaven can waitをもじったようなもの)、実においしそうな食事をしてまわる。実際これくらい食べ物がおいしそうな映画も珍しい。
グルメ旅には違いないし、ロマンスものに雰囲気は接近するが、しつこく没入することなくその時々の娯しみをほどほどに享受してまわる余裕が魅力。
衣装やアクセサリーの小物も生きている。
十代の時の「アウトサイダー」から「コットンクラブ」と、夫フランシスの作品の一翼を担ってきたダイアン・レインに五十過ぎてからでないと出ないであろう豊潤さを引き出しているのも魅力。
かといって相手の男も夫の事業の内実は火の車らしいことがだんだんわかってくるあたりも定石ながらいいバランスになっている。
リュミエール兄弟の記念館を訪れ、映画の原型である夫フランシスの会社の名前の元になったゾエトロープを見るあたりで一種のプライベート・フィルムであることをあからさまにする。
重くなりすぎないが、長い間生きているうちに受けた一生背負う他ないヒロインの心の傷は、コッポラ夫妻が実際に息子ジャン・カルロを失った体験が当然もとになっているのだろう。
映画から離れるが、フランシスがアクターズ・スタジオ・インタビューのゲストとして出演した時、若い学生たちにこんなことを言っていた。
「君たちの中には、お互い好きで一緒になりたいと思っている者もいるだろう。悪いことは言わないから、さっさと一緒になりたまえ。家族を持った方が落ち着いて力を発揮できるし、稼ぎも増える」実にそれらしい発言だと思った。
ハリウッド人種としては珍しく離婚経験がなく、娘ソフィアに限らずファミリーが全体として活動を続けている一家の主らしい。
(☆☆☆★★★)
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