晴れ,28度、88%
冷や麦って,あの,おうどんとお素麺中間の麺の事です。お水に浮かべた麺に氷をのせて出てきます。冷や麦という食べ物は,私の実家にはありませんでした。専らお素麺。だからというのではありませんが、冷や麦は苦手です。38年の台所仕事で一度も作りませんでした。一番大きな理由は,あの水でお出汁が薄まってしまうのが嫌だったのです。段々薄味のお出汁になってしまう味気なさ。
一方、主人は義母が夏になると冷や麦を出してくれたそうです。冷や麦の話をしますが,私は薄くなる出汁が嫌さに作りません。この夏、主人強硬手段に出ました。冷や麦を2袋も買って来たのです。買って来た翌日のお夕飯,確か冷やしうどんを出しました。すると,冷や麦は?とお聞きになります。ちょうど水を張って冷や麦を入れるようなガラスの器がありません。そこで翌日は,お素麺のようにしてクルンと巻いて出しました。そうめん冷や麦だねと,まあまあお喜びです。そして,お出汁を入れたガラスの器を持ち上げて、こうして麺が外から見えるのが小さい頃は嬉しかった,とおっしゃいます。それに,缶詰のみかんにチェリーなんかのってたねと,目は遠くを見ています。
その次の日の事,たまたまバカラの店の前を通りました。ウィンドーに小さなテーブルセッティングがディスプレイされています。その端の方にやや小ぶりなバカラらしからぬガラスのボールが置かれています。お店に入って,ほんとにバカラのですかと尋ねる私です。チーンと弾くと間違いなくクリスタル,でもカットがバカラらしくありません。お値段を聞いてびっくり,想像していた値段の4分の一ほどです。手に持つと,ニンマリするほど,冷や麦の器にぴったりな大きさ。聞けば,このカット,手でなくて機械のしかもプレスの器だそうです。お安いのには理由がありました。
冷や麦にいいなあと思いますが、すぐには求めませんでした。一晩考えます。冷や麦と叫ぶお方は,ちょうど出張中。一晩考えて,翌朝,早々にこのボールを抱えて帰ってきました。一晩考えるうちに、いっそ2つ買おうかとも思います。お店で2つありますかと尋ねると、香港中で2つしかないとおっしゃいます。まあ,ひとまずこの一つを使ってみる事にしました。
出張からお戻りの冷や麦の君に,早速お出ししました。いやー、お喜びになる事。みかんもチェリーものせません。ただ,お水に冷や麦を浮かべて氷をのせただけです。お出汁はいつもよりかなり濃くとりました。以来、毎晩冷や麦です。
普通ご主人の食べ物の好みは、次第に奥さんの味付けに馴らされて来ると聞きますが、我が家の場合は子供返りとでもいいますか,母の味を懐かしむ事が多くなりました。義母の料理は私には非常に甘く感じます。主人が,義母の料理を懐かしそうに話す時には,必ず,お砂糖をいつもの量より目をつむって大目に入れます。すると,まあ,美味しい美味しいの連発です。それでも,美味しいと思うものを食べてもらうのが一番と思っています。