曇、27度、89%
社会派の作家ジョージ・オーウェルの本を立て続けに読んだのは20代の終わり、1980年代のことでした。毎月一巻発売される晶文社の本を楽しみに待ちました。 「オーウェルの薔薇」と新聞に出ていた題名に目が止まったのはふた月前です。和訳は岩波書店から出ていますが、英語版を取り寄せました。オーウェルの家の庭の薔薇からこの作家の伝記的な本だと思い読み始めました。
オーウェルは晩年、庭に薔薇や果物の木を植えその手入れをするのが楽しみだったそうです。そこまでは私が思っていた筋書きでしたが、この本はそれだけでは終わりませんでした。ソルニットはオーウェルの薔薇からあらゆる方向に話を巡らせます。化石燃料としての石炭の話、社会主義における政治の裏話、圧巻は南米コロンビヤの薔薇農園の話です。
地元コロンビヤ人を雇っている薔薇農園の就業状況や汚染体質の企業であるとリポートします。アメリカ向けの薔薇を栽培する従業員は「母の日」「クリスマス」前はトイレに行く回数さえ監視されるほどの過酷な条件の元働きます。その農園の周りには虫一ついない、ケミカル漬けです。そういう話の展開は私の予想外、でもソルニットの視線は社会派オーウェルのそれと同じです。ソビエトのスターリンが別荘にレモンの木を植えるよう命じた話には、ソビエトの持つ社会的な背景を今のプーチンに重ね合わせます。
ソルニットはオーウェルが好きです。彼が植えた薔薇を実際に見て描き始めたこの本は話が多岐に飛びますが、それが見事に一つの本にまとまっています。アメリカ人ソルニット、私より4歳下の彼女の英語は難しかった。イギリス人が書く英語のようです。しかも話が政治的なものを下書きにあらゆるの方向に向かいます。
7月の終わりから主人の帰宅、孫娘の到来、本を読む時間が持てないだろうとやっと孫が来る前日に読み終えました。久しぶりに胸に落ちる本に出会いました。いい本です。ソルニット、「戦争」の反意語はと聞かれた際に「庭」と答えたそうです。私の心にストーンと響きました。