曇、25度、86%
父が亡くなる前後のことですから中学生でした。お豆腐が好きな父がすぐ近くのお豆腐屋さんのお豆腐をおいしくなくなったと言い始めたことがきっかけだった、と後から母に聞きました。母は佐賀に近い山奥にあるお豆腐屋さんまでお豆腐を買いに行きました。山の水で作られるお豆腐は美味しかった。バスの終点で、折り返す間にお豆腐を買って来た時と同じバスに乗り帰ります。あの頃から母は運転をやめました。バスで片道、30分以上かかったように思います。
私は長い休みに入ると母と一緒にお豆腐を買いに行きました。大柄なおばさんが一人で朝からお豆腐を作っていました。私が母と一緒に行くと目の前の大釜で出来立てのお豆腐を「厚揚げ」にしてくれました。まだジュルジュルと音を立てている「厚揚げ」にお醤油だけをつけてくれて「食べなさい。」美味しい思い出です。あの田舎屋で何個の「厚揚げ」を食べさせてもらったことか、鍋の大きさ、おばさんの笑顔と共に心に残ります。
「厚揚げ」も木綿が好きですが、時に「絹揚げ」と書かれたものを買います。柔らかな「絹ごし豆腐」を揚げたものだとばっかり思っていました。でも「絹ごし豆腐」にしてはちょっと食感が違います。弾けるような弾力があります。「胡麻豆腐」のような感触です。「胡麻豆腐」は「葛粉」で作ります。成分表を見ると「葛粉」ではなく「タピオカ」と書かれていました。一時期流行った「台湾の飲み物」に入っている大きな丸い粒です。「タピオカ」は「キャッサバ」という芋の粉です。面白い口当たりでしたが、紛い物のように思い食べなくなりました。最近はタピオカ入りの「厚揚げ」が姿を消していました。久しぶりに「絹揚げ」を買いました。材料の中には「タピオカ」の文字は見えません。切り口がやたらに白く感じます。「絹ごし豆腐」の白さではありません。食べるとやっぱり、ぷるんと弾ける「厚揚げ」です。一体何を入れて作っているのか?これを「厚揚げ」と思わなければそれなりに美味しいものです。「厚揚げ」じゃなく別物と思って食べました。
私には山で揚げてもらった「厚揚げ」のおいしさが染み込んでいます。油の匂い、弾ける音、熱々を頬張る幸せ、美味しい記憶です。
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