晴、19度、54%
スマートホンの写真アプリの中にはアプリが勝手に作ってくれた「思い出」の写真集があります。時折スマホを開けた途端、「何年前の今日」の「思い出」が飛び出して来ます。昨日は8年前の「思い出」でした。 2015年、まだ香港にいた頃です。私一人の帰国は決まっていました。引越しの荷物の第1便を出した後です。この時は一年後の2016年に帰国するつもりでした。モモの検疫の関係から半年遅れになるとは思っていませんでした。離れ難い香港、車も日本に送り出すつもりでしたので、ゆっくりとした日には香港の田舎を回りました。一つ一つの景色をしっかりと胸に留めておくつもりです。
8年前の11月9日に訪れたのは香港ランタオ島の西の端の漁村「大澳」です。2015年、香港の「新界」と呼ばれる田舎町でも高層ビルが建ち中国からの人の流れが日に日に増していました。でもここ「大澳」は依然のんびりした空気が流れていました。 河口にかかる橋は跳ね橋です。船が川を上ります。 橋を渡るのは人ばかりではありません。犬にとっても日常です。ほとんど野良犬がいなくなった香港ですが、田舎町には大型の野良犬がまだいました。 犬たちはのびのびとしていました。 大きな野良犬の存在を怖がることも気にすることもなく街は一日が過ぎて行きます。
漁村には必ず海の神様を祀った「天后廟」があります。 屋根の色、提灯中国らしい祠です。春から夏にかけては沖で採れた小エビを干して腐らせ、「蝦醬」と言う調味料を作ります。ハエがたかってもお構い無し、「通芯菜」の炒め物に使います。秋の日には、 月餅や料理に使う卵の黄身を干しています。柑橘の皮を干した「陳皮」を作るのもこの時期ならではです。十一月の香港は湿度が低く晴れた日が続きます。青いみかんの皮を剥き、 干します。この風景を見ると冬が近づいていると思ったものです。
香港島の我が家から「大澳」まで車で2時間足らず、30年の香港生活で一人で幾度も訪れました。黙って歩いていたら日本人だなんて分かりません。香港の田舎町独特の時間の流れ、人の匂いが好きでした。
8年前、帰国を前にして、時間を見つけては香港の田舎へ足繁く通いました。写真を見るまでもなく、空気の匂いも景色も私の中にいまだに生き住いています。