八幡さまに近い鎌倉街道沿いに、神奈川県立近代美術館鎌倉・別館がある。そこで”保田春彦展/白い風景シリーズとクロッキー”が開催されていたので、覗いてきた。ぼくには馴染みのない彫刻家(画家でもある)であったので、どんな彫刻と絵が並んでいるのか、楽しみであった。
展示室に入って驚いた。裸婦のクロッキーが、部屋の壁の端から端までずらりと並んでいるのだ。80点もある。そして、展示室の中央あたりに、得体の知れない白い、物体(彫刻なのだが)が7点ほど置いてある。
まず、裸婦のクロッキーをはじめから、ひとつひとつみてゆく。様々な姿態の裸婦が写実的に、単純な線で描かれている。背中や胸や足の筋肉まで描きこまれているので、ボディービルをやっていたモデルさんの裸婦のようだった(笑)。はじめの頃のは顔の細部は描かれていなかったが、後半のはモデルさんの顔がかなりはっきりとしていた。必ずしも、美人とはいえないし、スタイルだってそういいわけではない。
ぼくはいつも、先入観が入るから、解説のパネルは後から観るようにしている。裸婦裸婦裸婦、何故そんなに描き続けたのか、説明を読んでほろりとした。2000年に伴侶の同じ彫刻家のシルビアを亡くしてから、すでに”白い風景”の彫刻家として名をなしていた保田は2007年、突如、裸婦のクロッキー1000点を目指す。そして、2008年に1300点を完成させるが、厳選して700点にしぼり、残りは若き日を過ごしたパリのモンパルナスで描くことにする。多彩な個性をもつモデルさんがいたことを思い出したからだった。もう80歳を目前にしたときだった。しかし、途中、病気をして帰国、現在も療養中だとのことだ。
裸婦シリーズのほか、”闘病シリーズ”というのもある。病院内の治療風景や、自身の姿、を日記帳のように文章も画面の余白に入れている作品である。これも、また戯画をみるようで面白かった。ご自身はつらい思いをされているはずなのに、自分を客観視し、作品を作り続ける。子規の”病床六尺”を想い出してしまった。86年から大磯に住んでいるので、その近くの病院かもしれない。若い時は世田谷区に住んでいたためだろうか、来年は世田谷美術館に巡回するとのことだ。
小冊子のような図録を買ったので、その中からいくつか作品を載せておく。
”裸婦シリーズ”
”闘病シリーズ” 右側の絵、脳梗塞自画像と書かれている
”白い風景シリーズ” イタリアの田舎で出会った民家に想を得たそうだ。