初夢で「一富士、二鷹、三茄子」を見れば、縁起がよくその年はいいことがある、俗信がある。徳川家康が、富士山、鷹狩り、初物の茄子を好んだので、縁起がよいものとされたいう説がある。駒込では、駒込茄子が名産で有名であったそうである。
初夢に縁起のよい夢をみられるようにと宝船の絵を枕の下に置いて寝る風習もあった。この宝船には七福神が乗り、「長き夜の 遠の眠りの 皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな」という回文、前から読んでも後ろから読んでも同じに読める文がつけてあった。
山形の民話に「鷹の夢」というものがある。ある金持ち旦那が正月の初夢を見た。その夢は鷹が家の中に入ってきて三宝の上にとまった、というものだった。「これは目出度い夢だ」と喜んで、「みんなば呼んでお祝いせねば」というので案内を出した。ところが、ひとりの爺さまにだけ案内が届かなかった。
爺さまは、「俺は貧乏ださけ、見下げたんだな」と面白くなくていた。お祝いの当日、集まった人々は「旦那さま、正月の初夢、鷹の夢でおめでとうござんした」と言いあっていた。そこへ案内がなかった爺さまがきた。「案内が漏れてすまなかったな。ま、きてくれてよかった」と言って謝った。
爺さまは、「鷹の夢というが、止まったのはどこだ」と聞いた。「床の間の三宝の上だ」「鷹の首は上、それとも下を向いていたべか」「首を少し曲げていたようだ」爺さまそれを聞いて、「それほど悪い夢はないぞな」「何言ってんだ、昔から一富士、二鷹というではないか。鷹の夢がなぜ悪い」「旦那が見た夢は、首を曲げて三宝の止まった夢だ。なむ三ぼう、困っ鷹だ。これほど悪い夢はない」
この話を聞いて集まった人たちも、一人、また一人と帰っていった。それからというもの、旦那のすることなすこと失敗ばかりで、「財産(しんしょう)みんななぐしてしまったと」
こんな初夢を見たのでは大変だが、ことしもまた夢を見ることはなかった。この一年、どんな年になるか、しっかりとした計画とそれを実行していく忍耐づよさこそ、いい年をもたらしてくれると信じたい。