夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『グローバル・メタル』

2009年03月10日 | 映画(か行)
『グローバル・メタル』(原題:Global Metal)
監督:サム・ダン,スコット・マクフェイデン

被災地からやっとの思いで出てきた人と会ったとき、
その瞳をどこかで見たことがあると思いました。
自家用車を運転中に崖から落ち、
一昼夜、浅瀬に横転した車に閉じ込められていた知人と同じ瞳でした。
どちらも生死の境目を見た人の瞳でした。

まだ若きカナダ人の人類学者によるドキュメンタリーです。
監督については『ヘヴィ・メタル ラウダー・ザン・ライフ』(2006)で触れたとおり。
前作では欧米を訪れて、ヘヴィメタルのルーツをたどりましたが、
本作ではおよそメタルのイメージとはかけ離れた地域へ。
ブラジル、中国、インド、イスラエル、イランなどを巡ります。

どうして上述の「生死の境目を見た人」の話になるのかと言えば、
本作に登場するメタルファンの瞳に同じものを感じたからです。
私たち日本人は、音楽のジャンルを親が制限するような家庭は別として、
聴きたい音楽をいつでも聴ける環境にあります。
だけど、好きな音楽を命がけでなければ聴けない国がある。
独裁政権下にある国、宗教紛争の絶えない国、貧富の差が著しい国。
そんな国ではメタルTシャツを着ているだけで酷い目に遭わされます。

「神を信じる気持ちは同じなのに、神がちがうからって争うなんて。
僕らの国はつらい状況にあるけれど」と語る青年の瞳に、
大げさではなく、生死の境目を見たことのある人と同じ光を感じました。

自分が生きる国でメタルのライブがおこなわれる日を何十年も待ちわび、
警官に殴打されようとも、壁を乗り越えて会場へ向かおうとする。
そこへ集った何万人ものメタルファンが、
祈りのポーズで聴き入ったというエピソードや、
声を合わせて歌うシーンは感動的です。

どのライブ会場にも、その日出演するバンド以外のTシャツを着た人がいる。
アイアン・メイデンのライブなのにAC/DCとか。
これって、サザンのコンサートにミスチルのTシャツを着て行くとか、
そんな感じじゃないですか。ポップスファンではあり得ない。
誰が好きとか関係ないよ、メタルファンならみんなひとつ。
本作はそんな想いが胸を打ちます。

メタルファンよりも、むしろ、
メタルにまったく興味のない人にお薦めしたいドキュメンタリーです。

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『チェンジリング』

2009年03月06日 | 映画(た行)
『チェンジリング』(原題:Changeling)
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー,ジョン・マルコヴィッチ,
   ジェフリー・ドノヴァン,ジェイソン・バトラー・ハーナー,マイケル・ケリー他

劇場にて。

今年78歳にして、衰えるどころか、毎年新作を世に送り続け、
そのたびに絶賛されるクリント・イーストウッド。
本作は1920年代に実際に起きた事件の映画化です。

1928年3月。ロサンゼルス。
電話交換台の主任として働くクリスティンは、
9歳の息子ウォルターを女手一つで育てている。

休日、職場から出てきてほしいと連絡が入る。
母と映画に行く約束を反古にされて落胆するウォルターに、
クリスティンは明日こそ休みを取るからと話し、仕事に出かける。

終業後、急ぎ足で帰宅すると、ウォルターがいない。
警察に捜索を依頼するが、
大抵の子どもは翌朝帰ってくるものだと相手にしてくれない。
丸一日経ち、やっと捜索が開始されるが、
ウォルターの行方はわからない。

5カ月が経過した日、イリノイ州でウォルターが見つかったとの連絡が。
母と息子の感動の対面を警察が膳立て、
多くのマスコミ関係者が待機するなか、
担当警部に連れられて列車を降り立ったのはウォルターではなかった。

息子ではないと断言するクリスティンに、
会わない間に外見が変わっただけ、
とりあえずこの子を連れて帰るようにと耳打ちする警部。

当時の警察は能なしのレッテルを貼られ、
市民の信頼を得ようと必死。
息子を探している母親に別人を押しつけ、
異議を唱える母親を正気でないことにして精神病院に放り込む。
……こんなことがあっていいのかと思いますが、
あったんですね、実際に。

予告編を観たとき、大掛かりな陰謀があったのだと思っていました。
でも、そこにあったのはどちらかといえば出来心に近いくらいのもの。
ちょっといい顔をしたい、上司の点数を稼ぎたい、有名人に会いたい。
そんな出来心で始まったことが、人を恐ろしい状況にたたき落とします。
だけど、手を伸ばしてくれる善意の人も存在するのは確か。
クリスティンのラストのたった一語が素晴らしい。

イーストウッド本人主演で、
若い女優相手のラブシーンを見せられるのは正直言ってもうキツイ。
へろへろやん、いつ倒れるやろと心配ですから。(^^;
監督に徹していてくれるほうが安心かも。
と言いつつ、次の監督・主演作『グラン・トリノ』は楽しみです。

「希望」って凄い。

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『受験のシンデレラ』

2009年03月03日 | 映画(さ行)
『受験のシンデレラ』
監督:和田秀樹
出演:寺島咲,豊原功補,田中実,浅田美代子他

モナコ国際映画祭グランプリ受賞作なんですけど。
映画祭がマイナーすぎる。

監督は東大医学部卒の精神科医であり、
かつ、「受験の神様」と呼ばれる受験アドバイザー。
映画を撮ることが悲願だったそうです。

東大医学部卒の五十嵐は、
圧倒的な東大合格率を誇る人気塾のカリスマ講師。
授業料をいくら値上げしようとも増える一方の生徒たちに、
五十嵐は熱く語りかけるが、気持ちは冷めている。

ある日、五十嵐は末期癌を宣告される。
同窓生である医師の小宮によれば、余命は約1年半。
「密度を上げて要領のいいやり方をすれば、試験前の1カ月は6カ月になる」。
それが口癖だった五十嵐に、
小宮は、残された期間の密度を上げるべきだと言う。

気力を保てない五十嵐が車を運転していると、
よろよろと飛び出してきたのが真紀。
五十嵐は、以前、彼女をコンビニで見かけたことがあった。

父親は家を出て行き、母親にはまったく働く気がない。
やむをえず高校を辞めて働いている真紀は、
まとめて買うよりも1点ずつ買うほうが安くなるからと、
1点毎に支払いをさせろとコンビニの店長に詰め寄っていたのだ。

その数日後、交際中の男子高校生から貧乏くさいとフラれ、
自暴自棄で車に当たりにきた真紀を見て五十嵐は決意する。
真紀に高卒認定試験および大検を受けさせ、東大に合格させると。
「おまえ、東大に行かないか。人生は変えられる」。

監督本人の著書がぞろぞろ出て来る本作を、
宣伝が目的の作品と見る向きもあるようですが、
この監督、まちがいなく映画作りが好きです。
壮快、爽快、痛快。笑いも涙も。宣伝はオマケ。

五十嵐が真紀に伝授する受験のテクニックの数々。
何ができるかではなく、何ができないかをより正確に知れ。
考えるための道具をできるだけ多く持て。
思わずうなずかされます。

真紀がとにかくめちゃくちゃけなげ。
いつか五十嵐に見捨てられるのでは心配になり、
自分の出せる精一杯である500円を差し出します。
500円が、次も来てくれる約束。

母親が改心するシーンなんぞは一切ないのも良し。
そんなシーンは興ざめです。

「充実した人生を送れば穏やかな最期を迎えられる。
そう言ったけれど、嘘だな。
充実した人生を送れば……余計に死ぬのが怖くなる」。
五十嵐の言葉がしみじみと。

元気、いっぱい貰えます。

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