宮崎駿監督作品の「風立ちぬ」を見に行きました。
零戦の設計者として知られる実在の人物、堀越二郎の生涯を描いた作品である。
そういうイメージを持っていたのですが、この作品は堀越二郎本人が飛行機の設計に関わる
部分と堀辰雄の小説「風立ちぬ」、「菜穂子」に描かれている薄幸の美少女菜穂子との恋愛、
そして結婚という部分とが縦と横に織り込まれた作品になっていました。
二郎と菜穂子の話はフィクションです。
さらに、二郎が尊敬していたというイタリアの飛行機設計技師であるジャンニ・カプロー二
との夢を通じた対話シーンが額縁のように物語を形作っています。
これらが、戦前の田園風景や街の風景の丁寧な描写の中で進んでいきます。
とりわけ、関東大震災のすさまじい描写や軽井沢の避暑地の風景などが見事です。
堀越二郎という人物は、映画では人格的にも立派な人物として愛情を込め表現されています。
また、事実なのでしょうが、あの時代、二郎が会社からドイツなどに技術の研鑽のための
海外派遣されているということも興味を覚えました。
やはり、遅れていた技術から高度な技術に移行するためには、学ぶことが必要だったということでしょう。
実際には、戦前の暗い時代を背景にしているのですが、けっして暗くなることはなく、
恋愛は美しく、夢を追い、それを実現して行くストーリーはとても感動的でした。
私は、宮崎駿の作品の中では、これまでは「風の谷のナウシカ」が好きでしたが、
この「風立ちぬ」が、とても好きになりました。
なお、映画の中で見事に飛行に成功するのは零戦ではなく、九試単機という美しい姿の飛行機。
人力飛行機で有名な故木村秀政日大教授はこの九試単機を高く評価していたとか。
堀越二郎も零戦よりも九試単機が気に入っていたようです。冒頭のボスターの写真も九試単機。
零戦は最後のシーン、ジャンニ・カプロー二との夢の中で菜穂子とともに出てくるだけです。
私は、自衛隊沼津基地で零戦の実物を目にしたことがあるので、いずれにしても感慨深いものがありました。