一昨日、大型書店の詩のコーナーをうろうろしていたときのこと。
ある一冊の詩集とめぐり遇った。
上の写真に写っている、粕谷栄市詩集「遠い川」(思潮社刊 2800円+税)がそれである。
さっそく何編かを立ち読みし、たちまち引きずり込まれた。
粕谷さんの詩を、ずいぶん長らく読んでいなかったので、ドキドキするような強烈な印象であった。もしかしたら、須賀敦子の「トリエステの坂道」以来の“事件”かもしれないぞ。
大げさにいえば、三毛ネコ的にはそんな興奮なのである!(^^)!
とはいえ、わたしは粕谷さんの特別熱心なファンというわけではなかった。
しかし、第一詩集「世界の構造」(高見順賞受賞作)は、戦後の詩集のなかに屹立する、屈指の傑作であるというふうに評価してきたのである。
. . . 本文を読む
ある日ひとりの男が洗面所の鏡をのぞきこむ。
そして自分の顔が半分消えかかっていることに気づくのだ。
「おれには元々 ちゃんとした顔があったのに」
失われた顔のことを 鮮明には思い出せない不安が
彼の表情をさらにくもらせる。
ある日ひとりの女がホテルの姿見をのぞきこむ。
そして自分の体が半分欠けていることに気づくのだ。
「あたしには親からもらった体が 自慢の体があったのに」
どこへ落としたんだろうか?
フェンスにぶつかったとき くだけ散ったのか
・・・または獣に食いちぎられてしまったのか?
彼女は思い出すことができない。
. . . 本文を読む