二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

粕谷栄市という詩人をご存じですか?

2011年07月27日 | 俳句・短歌・詩集

一昨日、大型書店の詩のコーナーをうろうろしていたときのこと。
ある一冊の詩集とめぐり遇った。
上の写真に写っている、粕谷栄市詩集「遠い川」(思潮社刊 2800円+税)がそれである。
さっそく何編かを立ち読みし、たちまち引きずり込まれた。
粕谷さんの詩を、ずいぶん長らく読んでいなかったので、ドキドキするような強烈な印象であった。もしかしたら、須賀敦子の「トリエステの坂道」以来の“事件”かもしれないぞ。
大げさにいえば、三毛ネコ的にはそんな興奮なのである!(^^)!

とはいえ、わたしは粕谷さんの特別熱心なファンというわけではなかった。
しかし、第一詩集「世界の構造」(高見順賞受賞作)は、戦後の詩集のなかに屹立する、屈指の傑作であるというふうに評価してきたのである。





これが、わたしが古書店で手に入れ、愛蔵している「世界の構造」。
表紙の裏に、著者献呈のサインがあり、とても大切な一冊である。
これを見ると、栄市はじつは榮市と書くのがただしいことがわかる。
こういった「サイン入り」の小説や詩集を、ほかに5、6冊もっている。

一昨日は現代詩文庫の「続・粕谷栄市詩集」を買ってきただけだった。
ここには、「世界の構造」以降の詩集「悪霊」(全編)のほか、「鏡と街」「化体」の大部分と、拾遺詩編がおさめられている。むろん基本的にすべてが散文詩。

ところがけさ方になって、わたしに「幻の町」(ポエムNO.33)が生まれてきた。
その最初の読者であるわたしは、粕谷さんの最新詩集「遠い川」が、どうしても、すぐにも、・・・欲しくてたまらなくなったのである。
「世界の構造」もそうなのだが、「遠い川」はさらに大きな文字(活字)で印字されていて、老眼の人間には読みやすくつくってある。
これだけ大きいと、作品の印象を左右する。初版オリジナルでないと、こういうイメージは決してつたわらないものである。わたしは文庫本などのファンなのだが、詩集に関してべつな考えをもっている。茨木のり子さんのときもそう思ったので、いずれ「歳月」は、単行本を買ってくるつもりでいる。

粕谷さんの作品世界は、日本では他に比類のない、峻烈な寓話のおもむきをもっている。
ブラックユーモアとアイロニーが効いていて、渋味、苦味が強い大人の詩である。その底を、超現実的な抒情が、清冽に流れている。妥協的ではなく、説明的でもないその詩の世界は、しばしば残酷な光景を展開し、読者をこれまで経験したことがないような異世界へとつれていく。旧約聖書的な掟の支配するある地方の涯に、櫛がひとつころがっている――そのように、ことばが、白い紙の上に置かれるのである。



《湿原と呼ぶのであろう。暗く、寒く、絶えて人々はやってこない。しかし、花々は、限りなく闇を彩る。微風が吹くと、絶叫のような美しさが、一斉に翻る。
僅かに、偽りの暗示のように、白い月と断崖のみが、うっすらと見えるのだ》
(作品「水仙」の部分「世界の構造」所収・用字を少し変更)

さっきネットを検索していたら、「遠い川」が最近、三好達治賞を受賞したという情報がずらずらアップされていることに気がついた。
この詩集を携えて、茨城県の古河市まで出かけていこうか・・・と、ふと考える。
クルマを飛ばせば、二時間あまり。お茶屋さんのご主人である粕谷さんにお遇いして、一ファンとしてサインをねだるためにだ、むろん(^^;)
いったいどんな反応が返ってくるか。「人間嫌い」を心の奥にすまわせた、無口なじいさん(77歳)に違いない。できたら、写真を何枚か撮らせてもらおう――な~んて空想しながら、さて、夕食後「遠い川」にとりかかる。



「遠い川」について。
http://www.shichosha.co.jp/editor/item_353.html
http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011022601000649.html
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