二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

野の涯(ポエムNO.2-08)

2013年03月06日 | 俳句・短歌・詩集

これではない。
あれでもない。
手にとっては 元あった場所へ返す。
いったいなにを探しているんだろう?
きみは光に追いつかない。

腹をすかしたスズメどもが囀る三月。
春の気配が大空に薄膜をかけ
きみはますます遠ざかる。
探しものはみつからない。
恋びとの背中や帽子が眼の奥でゆあんゆあんと揺れて。

語りつくせないのに 語ろうとする。
追いつけないのに 追いつこうとする。
ぬげないのに ぬごうとする。
跳べないのに 跳ぼうとする。
おや 遠くで子どもが騒ぐ声がする。

イナゴやバッタの姿はない。
きみは音符の中に紛れ込んで揺れている休止符。
たとえばモーツァルトの たとえばブラームスの。
なにかいおうとして口ごもったとき
きみは記憶という大河のへりを散歩している。

「愛する人よ 愛して下さい」
そういう祈りが充満した 春の
野の涯のような場所にきみは立っている。
そこから気をとりなおして歩き出す。
いつか光に追いつく夢を夢みて。

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