19世紀というのは、わたしには最高におもしろい、エキサィテイングな世紀である。
20世紀の前の100年間。
文学も歴史も、この時代こそ、大輪の花を咲かせた。
とはいえ、19世紀を徹底して知るためには、18世紀も大事な世紀だし、オランダが世界の覇権国家であった17世紀だって比類のないおもしろさ、意外さを読者に開示する。
16世紀にさまざまな萌芽はあるものの、ヨーロッパにおける真の近代は17世紀からはじまり18世紀に頂点を極める。しかし・・・、19世紀に至ってさらなるもう一つの、真の頂上が待っていた!
そして、ヨーロッパが主要な戦場となった第一次世界大戦以後、急速に凋落していく。
本書では玉木俊明さんは「ベルエポック」という呼称を採用している。ベルエポックとは“よき時代”を意味する。わたしから見渡すと、この時代にこそ、なにもかもがぎっしり詰まっている。
こんなにおもしろい時代が、ほかにありうるだろうか・・・それはわたしの嗜好にもよるかも知れないが、ほかにもいろいろな理由が存在する。
文学に限ってかんがえたとしても、バルザックやゾラ、ディケンズ、ドストエフスキー、トルストイ等、19世紀には巨人ばかりがうようよしている。人間的なスケールが大きかったように思えるのは、19世紀がそういう巨人たちの時代であった・・・ということなのだ。
我が国の歴史上、幕末から明治にかけて、英雄豪傑ではないが、現在からは考えられないようなスケールの大きさをしめす人々が歴史の表舞台で活躍した。それと同じ理由なのであろう(*゚ー゚)
・序 章 ベルエポックの光と闇
・第一章 一体化する世界
・第二章 工業化と世界経済
・第三章 労働する人々
・第四章 余暇の誕生
・第五章 世界支配のあり方
・終 章 長き歴史のなかで
この書も、先学から多くの考え方、資料、パースペクティヴを継承している。玉木さんのオリジナルな考え方、資料がしめる割合はたいしたことがない。
本書でもふれられているけれど、日本ではイギリス近代史の専門家川北稔さんの研究から多くを学んでいる。そのさきにはウォーラーステインの存在がある。
「ベルエポック」は、わたしは芸術・・・音楽や絵画、文学について用いられる歴史概念だと、漠然とかんがえていた。しかし、玉木さんは、それをもっと広範な、19世紀的経済の繁栄そのものに拡張解釈している。
現代のわれわれを取り囲んでいる“消費社会”はこの時代のヨーロッパ、なかんずくイギリスで誕生したのである。余暇が持てるようになった社会から、観光旅行(ツーリズム)
をはじめ、いろいろな娯楽、レジャー、スポーツが生まれてくる。ゴルフもテニスもサッカーも競馬も、イギリスで発祥したのは、そういう経済的な繁栄の賜物なのである。
中でも第四章余暇の誕生や、第五章世界支配のあり方あたりはワクワクするような興味深い考察に満ちている。玉木さんの専門分野は、近代ヨーロッパ経済史だそうである。
だが、そういう“専門”にはまったくこだわっていない。
また、巻末には、主要参考文献が11ページにわたって収録されている。そういった先人の業績を踏まえ、歴史学の最新の成果に沿って書いているわけだが、まとめ方、再編集の手法がとてもうまく、感心させられた。こういう本が分厚く重く、何千円という価格ではなく「新書」という形式で、手軽に読めるとはいい時代になったものだなあ、と(*゚。゚)
文体にクセがなく、この手の本としては率直でとてもよみやすいのだ。
絶対に読み逃せないのは、私見によれば第五章の5、「手数料資本主義とイギリス」である。
海上保険や世界に張りめぐらされた通信ネットワークは、産業革命が終わってしまった現在もイギリスに年々莫大な手数料収入をもたらいているという。世界史の中でも、このあたりはこれまで注目度が低かったのではないか?
《この「手数料資本主義」が、イギリスのヘゲモニーの根幹をなした。》(本書229ページ)
《「ヨーロッパの世紀」の成立と発展は、ロンドン金融市場の機能に依存していたのである。》(同230ページ)
《そもそもヨーロッパの工業化に必要な原材料は、彼らの植民地から輸入された。ヨーロッパは、原材料の輸入のためにも、植民地を政治的に支配する必要があったのである。もし植民地が民主化し、自由に貿易ができるようになっていたら、ヨーロッパ諸国は工業化ができなくなってしまったであろう。
それが「ヨーロッパの世紀」の実相であった。》(同226ページ)
19世紀、ヨーロッパの繁栄の裏に、植民地にされた国・人々の過酷な収奪が存在したのである。豊富な図版、写真、地図、集計表等を駆使して、著者はその真相を暴きだす。
その手際のよさは、特筆されるレベルに達している。
この繁栄と虚飾に彩られたベルエポックは第一次世界大戦によって終わり、植民地の独立が相次ぐ中で、ヨーロッパに大きな危機が忍び寄る。
そのあたりをつぎに検証していこうと思って、何冊か手許に用意してある。
その本の中に、玉木さんの「<情報>帝国の興亡」(講談社現代新書)、飯倉章さんの「第一次世界大戦史」(中公文庫)がある。
さらに、せんだって刊行されたばかりの玉木俊明「世界史を『移民』で読み解く」(NHK出版新書)も買ってひかえてある。
今年は野鳥を撮りにフィールドへはまったく出ないで、読書三昧の冬を過ごしている。
興味つきないおもしろい本が、次からつぎへとやってきて、濫読者たるわたしの気分はやや焦燥気味、時間はいくらあっても足りないのであります(。・_・)
評価:☆☆☆☆
20世紀の前の100年間。
文学も歴史も、この時代こそ、大輪の花を咲かせた。
とはいえ、19世紀を徹底して知るためには、18世紀も大事な世紀だし、オランダが世界の覇権国家であった17世紀だって比類のないおもしろさ、意外さを読者に開示する。
16世紀にさまざまな萌芽はあるものの、ヨーロッパにおける真の近代は17世紀からはじまり18世紀に頂点を極める。しかし・・・、19世紀に至ってさらなるもう一つの、真の頂上が待っていた!
そして、ヨーロッパが主要な戦場となった第一次世界大戦以後、急速に凋落していく。
本書では玉木俊明さんは「ベルエポック」という呼称を採用している。ベルエポックとは“よき時代”を意味する。わたしから見渡すと、この時代にこそ、なにもかもがぎっしり詰まっている。
こんなにおもしろい時代が、ほかにありうるだろうか・・・それはわたしの嗜好にもよるかも知れないが、ほかにもいろいろな理由が存在する。
文学に限ってかんがえたとしても、バルザックやゾラ、ディケンズ、ドストエフスキー、トルストイ等、19世紀には巨人ばかりがうようよしている。人間的なスケールが大きかったように思えるのは、19世紀がそういう巨人たちの時代であった・・・ということなのだ。
我が国の歴史上、幕末から明治にかけて、英雄豪傑ではないが、現在からは考えられないようなスケールの大きさをしめす人々が歴史の表舞台で活躍した。それと同じ理由なのであろう(*゚ー゚)
・序 章 ベルエポックの光と闇
・第一章 一体化する世界
・第二章 工業化と世界経済
・第三章 労働する人々
・第四章 余暇の誕生
・第五章 世界支配のあり方
・終 章 長き歴史のなかで
この書も、先学から多くの考え方、資料、パースペクティヴを継承している。玉木さんのオリジナルな考え方、資料がしめる割合はたいしたことがない。
本書でもふれられているけれど、日本ではイギリス近代史の専門家川北稔さんの研究から多くを学んでいる。そのさきにはウォーラーステインの存在がある。
「ベルエポック」は、わたしは芸術・・・音楽や絵画、文学について用いられる歴史概念だと、漠然とかんがえていた。しかし、玉木さんは、それをもっと広範な、19世紀的経済の繁栄そのものに拡張解釈している。
現代のわれわれを取り囲んでいる“消費社会”はこの時代のヨーロッパ、なかんずくイギリスで誕生したのである。余暇が持てるようになった社会から、観光旅行(ツーリズム)
をはじめ、いろいろな娯楽、レジャー、スポーツが生まれてくる。ゴルフもテニスもサッカーも競馬も、イギリスで発祥したのは、そういう経済的な繁栄の賜物なのである。
中でも第四章余暇の誕生や、第五章世界支配のあり方あたりはワクワクするような興味深い考察に満ちている。玉木さんの専門分野は、近代ヨーロッパ経済史だそうである。
だが、そういう“専門”にはまったくこだわっていない。
また、巻末には、主要参考文献が11ページにわたって収録されている。そういった先人の業績を踏まえ、歴史学の最新の成果に沿って書いているわけだが、まとめ方、再編集の手法がとてもうまく、感心させられた。こういう本が分厚く重く、何千円という価格ではなく「新書」という形式で、手軽に読めるとはいい時代になったものだなあ、と(*゚。゚)
文体にクセがなく、この手の本としては率直でとてもよみやすいのだ。
絶対に読み逃せないのは、私見によれば第五章の5、「手数料資本主義とイギリス」である。
海上保険や世界に張りめぐらされた通信ネットワークは、産業革命が終わってしまった現在もイギリスに年々莫大な手数料収入をもたらいているという。世界史の中でも、このあたりはこれまで注目度が低かったのではないか?
《この「手数料資本主義」が、イギリスのヘゲモニーの根幹をなした。》(本書229ページ)
《「ヨーロッパの世紀」の成立と発展は、ロンドン金融市場の機能に依存していたのである。》(同230ページ)
《そもそもヨーロッパの工業化に必要な原材料は、彼らの植民地から輸入された。ヨーロッパは、原材料の輸入のためにも、植民地を政治的に支配する必要があったのである。もし植民地が民主化し、自由に貿易ができるようになっていたら、ヨーロッパ諸国は工業化ができなくなってしまったであろう。
それが「ヨーロッパの世紀」の実相であった。》(同226ページ)
19世紀、ヨーロッパの繁栄の裏に、植民地にされた国・人々の過酷な収奪が存在したのである。豊富な図版、写真、地図、集計表等を駆使して、著者はその真相を暴きだす。
その手際のよさは、特筆されるレベルに達している。
この繁栄と虚飾に彩られたベルエポックは第一次世界大戦によって終わり、植民地の独立が相次ぐ中で、ヨーロッパに大きな危機が忍び寄る。
そのあたりをつぎに検証していこうと思って、何冊か手許に用意してある。
その本の中に、玉木さんの「<情報>帝国の興亡」(講談社現代新書)、飯倉章さんの「第一次世界大戦史」(中公文庫)がある。
さらに、せんだって刊行されたばかりの玉木俊明「世界史を『移民』で読み解く」(NHK出版新書)も買ってひかえてある。
今年は野鳥を撮りにフィールドへはまったく出ないで、読書三昧の冬を過ごしている。
興味つきないおもしろい本が、次からつぎへとやってきて、濫読者たるわたしの気分はやや焦燥気味、時間はいくらあっても足りないのであります(。・_・)
評価:☆☆☆☆