二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

町を歩く

2011年06月03日 | 俳句・短歌・詩集
町を歩く・・・。
そこへ出かけては帰ってくる。
路地から路地をさまよう。
あらゆるものにはにおいがある たぶんね。
古さびたもののほうが いいにおいを放っている。
町角の場合 大抵はそうなのだ。

犬のように においを嗅いで歩くことはできないから
ぼくは一台か 二台のカメラを携えている。
なだらかな丘の上の町から眺めると
きみの過去もぼくの過去もかつて美しかった人のうなじに似ている。

もぎたての林檎のようなものが そのうなじにのっかっている。
あれはなんだろう なんだろう?
ぼくはそっちへ歩いていく。
花柄のネコがいるショーウィンドゥや
「空き缶BOX」に向かってシャッターを切る。
ピンク色のヘルメットをかぶった女の子がほほえみながら自転車を押してすれ違う。
すれ違いざまその一瞬をカメラにおさめ
向こう向きの老人みたいな火の見櫓をカメラにおさめる。

六十年も生きていると 記憶のプールには
じつにたくさんの十字路や黄色いぶどうや
とびっきりの笑顔がたくわえられている。
「上手に思い出すこと。肝心なのはそのことだ」
といったのはだれでしたっけ?

地名辞典のなかから 一個の地名をさがしあてるように
ぼくは歩きながらいろいろな光景に出会う。
出会っては そこを後にして 歩いていく。
目的なんて あるようでない。
ないようで ある。
あたりまえだろう ぼくはぼくの行方を探している。
あの日 あの場所で別れた 猫背の叔父さんを探すように。

気取っている。
こわれている。
屈み込んでいる。
しらばっくれている。
さそって だまそうとしている。
もうけをたくらんでいる。
途方に暮れている。
何十年も沈黙をまもっている。

――町はそういう光景にあふれているね。

通りすがりの人 というのがぼくの名前さ。
一本の並木道を通り 突きあたりまでいって もどってくる。
ああ ハナミズキがきれいに咲いているね。
だけど 聞こえてくるはずのあの人の歌声はない。
ぼくは眼で なつかしい町角の光景にふれる。
なつかしさの理由をたしかめるすべがないから カメラをかまえ
シャッターを押す。

どこまでも歩いていく。
かつて あそこやここに住んでいたことがあった
・・・とでもいうように。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« モーツァルトな時間 | トップ |  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

俳句・短歌・詩集」カテゴリの最新記事