
(わが家の畑のトマト)
1
初夏に近いある明け方
ぼくのまぶたの裏に虹がかかった。
赤城乙女 榛名乙女 妙義乙女が
手になにかささげ持って
その虹の浮き橋を愉しげに
じつに愉しげに スキップしながら渡っていった。
名づければスミレ ボタン アジサイ
・・・のような乙女たちが。
ぼくは目を覚まして沈思黙考する。
あれは あの虹はどこへ消えたのだろう。
三人の乙女たちも消えている。
「ああ カメラを持ってくればよかったのに」
夢から半ば覚めながら
そんなことを呟いた
・・・ような気がする。
書物にうもれて暮らすということは
無数の文字の螺旋階段をのぼったり
下りたりしているのと同じだ。
ときおりだれかがとなりに ドスン!
と落ちてきたりする。
ぼくも足を踏み外して尻餅をつく
書物の中で。
観客はだれもいないから
笑い声は聞こえないのだが。
2
目覚め際のまぶたの裏に住んでいる人びとは
いつまでも年をとらない。
それが別名 “思い出”と呼ばれているからだろうか。
明け方にやってきて
数分間いただけで去っていく人びとの
なんとなつかしいことだろう なんと。
ぼくという入江の涯が
書物の向こう側で
インド洋や 大西洋につながっている。
まぶたの岸辺をうるおす 塩辛い水
涙。
3
さよなら さよなら
なつかしい人びと
なつかしい死者。
まもなくぼくもそこへいく。
だれだって「そこ」へいくのだから。
赤城乙女よ
榛名乙女よ
そして・・・妙義乙女よ。
明け方の虹の向こうへ嫁入りした女たちよ。
滝の音が響いているね。
鼓膜の向こう側
こちら側。
その響きにのってやってくる
トマトやナス キュウリなどの夏野菜。
囓ったそのとき
どこかで聞いた雨音 のようにほとばしる悲しみ
の意味で のどが鳴る。ごくん
と
ごくんと 鳴る。
その音を聞きながら
ぼくはまもなく永い眠りにつくだろう。
なつかしい人びとの隣で
つまりは墓地で
沈思黙考しながら。
※写真と詩は直接的な関係はありません
1
初夏に近いある明け方
ぼくのまぶたの裏に虹がかかった。
赤城乙女 榛名乙女 妙義乙女が
手になにかささげ持って
その虹の浮き橋を愉しげに
じつに愉しげに スキップしながら渡っていった。
名づければスミレ ボタン アジサイ
・・・のような乙女たちが。
ぼくは目を覚まして沈思黙考する。
あれは あの虹はどこへ消えたのだろう。
三人の乙女たちも消えている。
「ああ カメラを持ってくればよかったのに」
夢から半ば覚めながら
そんなことを呟いた
・・・ような気がする。
書物にうもれて暮らすということは
無数の文字の螺旋階段をのぼったり
下りたりしているのと同じだ。
ときおりだれかがとなりに ドスン!
と落ちてきたりする。
ぼくも足を踏み外して尻餅をつく
書物の中で。
観客はだれもいないから
笑い声は聞こえないのだが。
2
目覚め際のまぶたの裏に住んでいる人びとは
いつまでも年をとらない。
それが別名 “思い出”と呼ばれているからだろうか。
明け方にやってきて
数分間いただけで去っていく人びとの
なんとなつかしいことだろう なんと。
ぼくという入江の涯が
書物の向こう側で
インド洋や 大西洋につながっている。
まぶたの岸辺をうるおす 塩辛い水
涙。
3
さよなら さよなら
なつかしい人びと
なつかしい死者。
まもなくぼくもそこへいく。
だれだって「そこ」へいくのだから。
赤城乙女よ
榛名乙女よ
そして・・・妙義乙女よ。
明け方の虹の向こうへ嫁入りした女たちよ。
滝の音が響いているね。
鼓膜の向こう側
こちら側。
その響きにのってやってくる
トマトやナス キュウリなどの夏野菜。
囓ったそのとき
どこかで聞いた雨音 のようにほとばしる悲しみ
の意味で のどが鳴る。ごくん
と
ごくんと 鳴る。
その音を聞きながら
ぼくはまもなく永い眠りにつくだろう。
なつかしい人びとの隣で
つまりは墓地で
沈思黙考しながら。
※写真と詩は直接的な関係はありません