二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

菜の花の土手(ポエムNO.3-65)

2020年05月26日 | 俳句・短歌・詩集


たまたま通りかかった庭さきで
嗚咽する老女の肩をしばらく見つめ
それから歩きはじめる。
いくあてなんてありはしない。
ウォーキングしている だけの人びと。
その一人にすぎないぼくにも
アルビノーニのアダージョでつつんであげたい人がいたのだ。
だが その人もいまはない。

記憶の底 夕陽が照らす段々畑。
どこまでもつづく桜並木と
チョウがたわむれる菜の花の土手。

その曲りくねった道の途中に
ずいぶんたくさんのものを置き去りにしてきた。
置き去りにしてきたものは
とり返しがつかない。
歳をとった男の悪いクセで
“いまはないもの”ばかりを数えながら
いつとも知れぬ過去から
ぽとりぽとりとしたたる水滴に耳をすます。

アルビノーニのアダージョを聴いているときのように。
・・・おや 
またなにやらぼくの肘にふれたものがある。

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